交通事故の民事裁判において、多くの方が「裁判=最後に裁判官が『主文、被告は原告に〇〇万円を支払え』と判決を言い渡して終わるもの」とイメージされています。
しかし、実際の交通事故裁判の約70%は「和解(わかい)」で終了しています。 裁判が中盤から終盤(証拠の提出が終わり、本人尋問が終わった頃)に差し掛かると、裁判官から原告(被害者)と被告(保険会社)の双方に対して、「和解勧告(わかいかんこく)」が行われます。
この和解案を受け入れるか、それとも拒否して「判決」まで徹底的に戦うか。これは被害者と担当弁護士にとって、裁判における最も重要な「決断の瞬間」となります。
「裁判上の和解」のメリット
裁判官が提示する和解案は、これまでの証拠や尋問を踏まえて「もし今、判決を書くならこういう結論になるだろう」という裁判官の心証(予測)をベースにして、双方が少しずつ歩み寄れるように作られています。
和解を受け入れることには、被害者にとって以下の大きなメリットがあります。
- 早期に解決し、確実にお金(賠償金)が支払われる 判決まで待つよりも1ヶ月〜数ヶ月早く解決します。また、和解は双方が合意して成立するため、相手(保険会社)が控訴(上訴)してくることはありません。和解成立後、通常2週間〜1ヶ月程度で確実に賠償金が振り込まれます。
- 控訴(第二審)へ持ち込まれる「泥沼化」を防げる もし判決が出た場合、敗訴した保険会社が判決に不服を申し立てて「控訴」し、高等裁判所での第二審が始まってしまうリスクがあります。こうなると解決までさらに半年〜1年以上も長引いてしまいます。
- 過失割合や争点について「柔軟な調整」ができる 判決は「白か黒か」を厳格に定めますが、和解の場合は「過失割合は明言しない代わりに、賠償金に上乗せして調整する」といった、双方のメンツを保つための柔軟な着地点を探ることができます。
和解を蹴って「判決」まで行くべきケース
一方で、裁判官の和解案を拒否し、最後まで「判決」を求めるべきケースもあります。
1. 和解案が到底受け入れられない内容である場合
裁判官が、加害者側の都合の良い主張(こちらの過失が重いなど)を鵜呑みにしており、到底納得できない低い和解案を提示してきた場合。 このような場合は安易に妥協せず、「和解は拒否するので、判決を書いてください」と堂々と突っぱねるべきです。和解が決裂すれば、裁判官は改めて証拠を精査し、厳格な法解釈に基づいた判決を下します(その結果、和解案と似た結論になる可能性もありますが、控訴して高裁でひっくり返すチャンスも残ります)。
2. 「遅延損害金」と「弁護士費用」の満額上乗せを狙う場合
前項で解説した通り、裁判で「判決」が出れば、賠償額に対して「遅延損害金(年利3%)」と「弁護士費用相当額(10%)」が強制的に上乗せされます。 和解案の中にもこれらを考慮した「調整金」が上乗せされることはありますが、判決のように「キッチリ満額」が加算されることは稀です。 死亡事故や重度後遺障害の事案など、賠償金が数千万円に及ぶ場合、遅延損害金だけで数百万円の差になることがあります。そのため、時間をかけてでも「判決」をもらった方が、最終的な手取り額が圧倒的に多くなるケースでは、敢えて和解を蹴るという戦略をとります。
決断を支えるのは弁護士の「見通し」
裁判官から「これで和解しませんか」と言われると、多くの被害者は「裁判官に逆らってはいけないのではないか」とプレッシャーを感じてしまいます。
しかし、裁判上の和解はあくまで「提案」にすぎず、従う義務は一切ありません。 重要なのは、「この和解案を蹴って判決に行った場合、勝つ見込み(金額が上がる見込み)はどれくらいあるのか?」「相手が控訴してくるリスクはどれくらいか?」という、法的な損得勘定を正確に行うことです。
夕陽ヶ丘法律事務所では、裁判官の和解案が提示された際、これまでの裁判官の言動や提出された証拠を徹底的に分析し、「和解で手を打つべきか、判決まで戦うべきか」のメリット・デメリットを依頼者様にわかりやすくご説明します。最終的な決断は被害者様に委ねられますが、後悔のない選択ができるよう、プロとして最適な戦略をご提案いたします。