交通事故のケガの治療が長引いたり、後遺障害の申請をしたりする場面で、加害者側の保険会社が被害者に突きつけてくる強力な減額の切り札が「素因減額(そいんげんがく)」です。
特に、首や腰のケガ(むちうち等)において頻繁に問題となる素因減額について、その仕組みと対抗策を解説します。
「素因減額」とは何か?
素因(そいん)とは、被害者が事故に遭う前から元々持っていた「身体的・精神的な特徴や持病」のことです。
交通事故の損害賠償は、「事故が原因で発生した損害」を加害者が補償する制度です。そのため、「ケガの治療が長引いたり後遺症が残ったりしたのは、事故の衝撃そのものよりも、被害者が元々持っていた持病(素因)が原因ですよね。だから、その持病の割合の分だけ賠償金(慰謝料など)を減らしますよ」というのが、素因減額の論理です。
減額される割合はケースバイケースですが、20%〜50%といった大幅な減額を主張されることもあり、被害者にとっては死活問題となります。
素因減額が主張されやすい「よくあるケース」
最もトラブルになりやすいのが、レントゲンやMRI画像で骨や神経の異常が見つかった場合です。
- 「無症候性」の椎間板ヘルニア(本人は自覚していなかったが、画像上はヘルニアが存在していた)
- 脊柱管狭窄症や変形性頸椎症
- 過去の交通事故やスポーツによる古傷
- 精神的な素因(うつ病の既往歴や、極度に神経質な性格など)
保険会社は、被害者のMRI画像に少しでも「加齢による変形(変性)」を見つけると、鬼の首を取ったように「これは事故のケガではなく加齢・既往症だ!素因減額だ!」と主張し、治療費の打ち切りや賠償金の大幅カットを迫ってきます。
保険会社の「不当な素因減額」への3つの対抗策
保険会社が「素因減額だ」と言ったからといって、法律上直ちにそれが認められるわけではありません。以下のポイントで反論を行います。
1. 「年齢相応の自然な変化」にすぎないと主張する
最高裁判所の判例でも、「加齢に伴う一般的な身体の変化(年齢相応の骨の変形など)は、素因減額の対象にはならない」という基準が示されています。 人間の体は誰でも歳を取れば骨が変形します。それが「同年代の人と比べて異常にひどい状態(疾患レベル)」でなければ、保険会社の主張は裁判基準では否定されます。
2. 「事故前は無症状だった」ことを証明する
仮に画像上でヘルニアが存在していたとしても、「事故に遭うまでは全く痛みがなく、普通に仕事やスポーツをしており、病院にも一切通っていなかった」のであれば、そのヘルニアは日常生活に支障のない状態でした。 「事故という強烈な外的要因が引き金となって初めて症状が出たのだから、全額補償されるべきだ」と、健康診断の記録や同僚の証言などを用いて反論します。
3. 主治医の「意見書」を活用する
素人である被害者が「加齢ではない」と主張しても保険会社は聞き入れません。弁護士を通じて主治医に医療照会を行い、「本件の画像所見は加齢性の変性にとどまり、素因減額の対象となるような疾患ではない。症状は事故による外傷が原因である」といった医学的な意見書を書いてもらい、証拠として突きつけます。
「素因減額」という専門用語を出されると、被害者の方は「そう言われると仕方ないのかな」と諦めてしまいがちです。しかし、保険会社の主張は法的に間違っている(あるいは極端に自社に有利に解釈している)ことが非常に多い分野です。納得がいかない減額提示を受けた場合は、示談書にサインする前に必ず夕陽ヶ丘法律事務所にご相談ください。