既往症(ヘルニア等)がある場合の「素因減額」トラブルへの対抗策

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、弁護士による交通事故示談交渉・後遺障害等級認定の実務経験に基づき、最新の法令および裁判所基準(弁護士基準)に沿ってわかりやすく解説しています。

交通事故のケガの治療が長引いたり、後遺障害の申請をしたりする場面で、加害者側の保険会社が被害者に突きつけてくる強力な減額の切り札が「素因減額(そいんげんがく)」です。

特に、首や腰のケガ(むちうち等)において頻繁に問題となる素因減額について、その仕組みと対抗策を解説します。

Q 事故前にヘルニアや持病があった場合、保険会社から言われる「素因減額」で慰謝料や賠償金はどれくらい減らされてしまうのですか?
A 【法律・基準の要点】事故前からヘルニアや変形性頸椎症などの既往症があると、保険会社は「ケガの悪化や治療の長期化は事故ではなく持病が原因だ」として、賠償金や後遺障害慰謝料を20%から50%ほど大幅に減額する「素因減額」を主張してきます。しかし、本人が無症状で日常生活に支障なく過ごしていた場合(無症候性疾患)、保険会社の言い分通りに減額されるのは不当であり、判例上も素因減額が否定・制限されるケースが多く存在します。
【対策・弁護士活用のメリット】保険会社の言いなりになって安易に減額を受け入れてはいけません。対抗するためには、事故前のカルテ開示請求や、事故の衝撃が強かった客観的証拠の提示、さらに「既往症があっても本件事故により症状が発症・悪化した」ことを医師の診断書や意見書で証明することが不可欠です。複雑な医療知識や過去の裁判例に基づく交渉が必要となるため、不当な減額を防いで正当な慰謝料を獲得したい場合は、交通事故と医療記録の分析に精通した弁護士へ早めに相談することをおすすめします。

「素因減額」とは何か?

素因(そいん)とは、被害者が事故に遭う前から元々持っていた「身体的・精神的な特徴や持病」のことです。

交通事故の損害賠償は、「事故が原因で発生した損害」を加害者が補償する制度です。そのため、「ケガの治療が長引いたり後遺症が残ったりしたのは、事故の衝撃そのものよりも、被害者が元々持っていた持病(素因)が原因ですよね。だから、その持病の割合の分だけ賠償金(慰謝料など)を減らしますよ」というのが、素因減額の論理です。

減額される割合はケースバイケースですが、20%〜50%といった大幅な減額を主張されることもあり、被害者にとっては死活問題となります。

素因減額が主張されやすい「よくあるケース」

最もトラブルになりやすいのが、レントゲンやMRI画像で骨や神経の異常が見つかった場合です。

  • 「無症候性」の椎間板ヘルニア(本人は自覚していなかったが、画像上はヘルニアが存在していた)

  • 脊柱管狭窄症や変形性頸椎症

  • 過去の交通事故やスポーツによる古傷

  • 精神的な素因(うつ病の既往歴や、極度に神経質な性格など)

保険会社は、被害者のMRI画像に少しでも「加齢による変形(変性)」を見つけると、鬼の首を取ったように「これは事故のケガではなく加齢・既往症だ!素因減額だ!」と主張し、治療費の打ち切りや賠償金の大幅カットを迫ってきます。

保険会社の「不当な素因減額」への3つの対抗策

保険会社が「素因減額だ」と言ったからといって、法律上直ちにそれが認められるわけではありません。以下のポイントで反論を行います。

1. 「年齢相応の自然な変化」にすぎないと主張する

最高裁判所の判例でも、「加齢に伴う一般的な身体の変化(年齢相応の骨の変形など)は、素因減額の対象にはならない」という基準が示されています。 人間の体は誰でも歳を取れば骨が変形します。それが「同年代の人と比べて異常にひどい状態(疾患レベル)」でなければ、保険会社の主張は裁判基準では否定されます。

2. 「事故前は無症状だった」ことを証明する

仮に画像上でヘルニアが存在していたとしても、「事故に遭うまでは全く痛みがなく、普通に仕事やスポーツをしており、病院にも一切通っていなかった」のであれば、そのヘルニアは日常生活に支障のない状態でした。 「事故という強烈な外的要因が引き金となって初めて症状が出たのだから、全額補償されるべきだ」と、健康診断の記録や同僚の証言などを用いて反論します。

3. 主治医の「意見書」を活用する

素人である被害者が「加齢ではない」と主張しても保険会社は聞き入れません。弁護士を通じて主治医に医療照会を行い、「本件の画像所見は加齢性の変性にとどまり、素因減額の対象となるような疾患ではない。症状は事故による外傷が原因である」といった医学的な意見書を書いてもらい、証拠として突きつけます。

「素因減額」という専門用語を出されると、被害者の方は「そう言われると仕方ないのかな」と諦めてしまいがちです。しかし、保険会社の主張は法的に間違っている(あるいは極端に自社に有利に解釈している)ことが非常に多い分野です。納得がいかない減額提示を受けた場合は、示談書にサインする前に必ず夕陽ヶ丘法律事務所にご相談ください。

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FAQよくある質問

Q. 事故で首を痛めてMRIを撮ったら、「加齢による椎間板ヘルニアがある」と診断されました。保険会社から「元々のヘルニアのせいだから賠償金を減らす(素因減額)」と言われています。

A. 裁判所の基準では、「加齢による一般的な骨の変形(年齢相応の変性)」は、人間が生きている以上誰にでも起こり得るものであり、直ちに素因減額の対象にはならないとされています。保険会社の言い分を鵜呑みにせず、弁護士を通じて「年齢相応の変化に過ぎない」と反論することが重要です。

Q. 事故前に腰痛で整形外科に通っていた記録があります。この場合、素因減額は避けられませんか?

A. 事故前から「全く同じ部位」を治療中であり、その症状が事故によって悪化したようなケース(既存障害の加重)では、ある程度の素因減額(賠償金の減額)はやむを得ない場合があります。しかし、事故前にはすでに完治して通院していなかった場合や、事故とは違う部位だった場合は、素因減額を跳ね返せる可能性があります。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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