公務員の交通事故における休業損害の考え方
国家公務員や地方公務員、教職員などの公務員が交通事故の被害に遭い、怪我の治療のために仕事を休んだ場合、民間企業の会社員と同様に加害者に対して「休業損害」を請求することができます。
公務員の休業損害の計算方法は、基本的には会社員と同じです。 休業損害 = 基礎収入日額(事故前3ヶ月の給与÷90日) × 休業日数
しかし、公務員は民間企業とは異なる独自の休暇制度や休職制度、共済組合による手厚い補償制度があるため、損害賠償請求において特有の争点が発生します。
有給休暇(年次休暇・病気休暇)を使用した場合
交通事故の治療で仕事を休む際、多くの公務員は有給休暇(年次有給休暇や特別休暇である病気休暇)を使用します。有給休暇を使用した場合、職場から通常通り給与が支払われるため、「現実の収入の減少」は発生していません。
しかし、法的には「本来ならリフレッシュなどのために自由に使えるはずだった有給休暇の権利を、交通事故のせいで消費させられた」という不利益を金銭的に評価すべきとされています。 したがって、有給休暇を使用した日は、欠勤した日と同等に扱われ、加害者に対して休業損害として請求することができます。
給与の減額(半減など)と休業損害
公務員が病気休暇等を使い切り、休職扱いとなった場合、一定期間は給与の全額または一部(8割や半額など)が支給される制度があります。
この場合、支給されなかった減額分(実際に減収となった部分)について休業損害を請求することができます。
共済組合からの給付と損益相殺(二重取りの禁止)
公務員の場合、給与が減額または支給停止になった期間に対して、共済組合から「傷病手当金」などの休業補償的な給付が支給されることがあります。 また、公務災害(民間企業の労災に相当)に認定された場合は、地方公務員災害補償基金などから休業補償が支払われます。
ここで注意しなければならないのが「損益相殺(そんえきそうさい)」というルールです。
傷病手当金と休業損害の調整
損益相殺とは、交通事故という一つの原因によって、被害者が損害(休業による減収)を被る一方で、同じ原因から利益(傷病手当金などの給付金)を得た場合、公平の観点から、その利益分を損害賠償額から差し引く(控除する)というルールのことです。
例えば、1ヶ月の休業で給与が30万円減少し、共済組合から傷病手当金として20万円を受け取った場合、加害者に請求できる休業損害は残りの10万円となります。(30万円を全額加害者に請求し、さらに20万円も受け取ると、事故前より得をしてしまう「二重取り」になるためです)。
※ただし、見舞金的な性質を持つ給付(付加給付など)は控除の対象外となるケースもあります。
公務員の逸失利益における特有の争点
後遺障害等級が認定された場合、将来得られるはずだった収入の減少分として「逸失利益」を請求します。 逸失利益は通常、基礎収入 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数 で計算されますが、公務員の場合は保険会社から「逸失利益は発生していない(ゼロである)」と反論されることがよくあります。
なぜ公務員の逸失利益は否定されやすいのか?
その理由は、公務員の身分保障の強さにあります。 民間企業の場合、後遺障害によって仕事の効率が落ちれば、降格や減給、最悪の場合は解雇(退職)の憂き目に遭い、将来の減収が現実化しやすい傾向があります。 一方、公務員の場合、身体に障害が残っても、負担の軽い部署への配置転換などの配慮が行われ、直ちに給与が下がることは少なく、定年まで安定して勤務できる可能性が高いとみなされがちだからです。
「給料が下がっていないなら、逸失利益(将来の減収)はないはずだ」というのが保険会社の論理です。
弁護士が逸失利益を勝ち取るための立証方法
給与が減っていない公務員であっても、将来にわたって絶対に減収が生じないとは限りません。弁護士は以下のような事情を具体的に立証し、適正な逸失利益を請求します。
- 昇進・昇格への悪影響:後遺障害によって本来予定されていたポストへの昇進が遅れ、生涯賃金が減少する可能性。
- 配置転換による不利益:現場業務から事務職へ異動になったことで、本来得られていたはずの各種手当(超過勤務手当や特殊勤務手当など)が失われたこと。
- 本人の過度な努力:給与水準を維持できているのは、職場の同僚の多大なサポートや、被害者本人が痛みを堪え、本来以上の努力(私生活の犠牲)をして業務をこなしているからに過ぎないこと。
- 将来の転職・退職の可能性:公務員であっても、後遺症の悪化により将来的に退職を余儀なくされるリスクがあること。
手続きの複雑さを解消するために
公務員が交通事故の被害に遭った場合、加害者側の保険会社への請求だけでなく、所属する共済組合や公務災害の手続きなどが複雑に絡み合い、書類の準備や調整に膨大な労力がかかります。
特に逸失利益の交渉では、保険会社の「給与が減っていないから逸失利益はゼロ」という主張を打ち破るための専門的な法的主張が不可欠です。ご自身の正当な権利を守り、適切な賠償金を獲得するために、早い段階で交通事故に強い弁護士へご相談されることをお勧めします。