交通事故で脳に壊滅的なダメージ(重度の脳挫傷やびまん性軸索損傷など)を受けると、一命は取り留めたものの、自力で動くことも、言葉を発することも、目で物を追うこともできない状態に陥ることがあります。
これを医学的に「遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)」と呼びます(一般的には「植物状態」と呼ばれる状態です)。 日本脳神経外科学会の定義によれば、自力での移動、食事、排泄ができず、声を出しても意味のある発語ができず、目を開けていても認識できない状態が「3ヶ月以上」継続した場合に診断されます。
遷延性意識障害は、交通事故の後遺障害の中で最も重い「別表第1 第1級1号(常に介護を要するもの)」に該当し、その賠償額は将来介護費を含めると数億円に達することも珍しくありません。
遷延性意識障害の賠償請求における3つの最重要ポイント
ご家族が遷延性意識障害となってしまった場合、その後の生涯にわたる莫大な介護・医療費を確保するためには、保険会社との間で激しい法的な争いが生じます。特に以下の3点が最大の争点となります。
1. 巨額の「将来介護費用」の算定
被害者は24時間体制での痰の吸引や体位変換(床ずれ防止)、経管栄養などの重厚な介護を一生涯必要とします。 そのため、症状固定日から平均余命までの「将来介護費用」の確保が絶対的に必要です。
- 保険会社の主張:「家族が自宅で介護するのだから、日額8,000円(近親者介護の基準)のみしか払わない」
- 弁護士の主張:ご家族の肉体的・精神的負担(介護疲れによる共倒れ)を防ぐため、将来的に「職業介護人(プロのヘルパー)」の利用や、重度障害者向け施設への入所を前提とした、日額2万円前後、あるいは実費全額の賠償を強く求め、裁判で勝ち取ります。
2. 「平均余命(いつまで生きられるか)」を巡る争い
将来介護費や逸失利益は、「被害者が今後何年生きるか(平均余命)」を基準に計算されます。
- 保険会社の主張:過去の統計データなどを用いて、「植物状態の患者は肺炎などの合併症を起こしやすく、一般的な健康な人と比べて寿命が極端に短い(例:あと5年しか生きられない)」と主張し、賠償総額を数分の一に値切ろうとしてきます。
- 弁護士の主張:現代の医療・介護技術の進歩により、遷延性意識障害の患者でも健常者と変わらない寿命を全うするケースは多数存在します。原則として「同年齢の健常者の平均余命」を適用すべきと強く反論し、将来の補償を絶対に切り捨てさせません。
3. ご家族への「近親者慰謝料」の請求
元気だった家族が突然、言葉を交わすこともできない状態になってしまったご家族の絶望と精神的苦痛は、死亡事故にも匹敵、あるいは日々の重い介護負担を伴う分、それ以上とも言えます。 被害者本人の後遺障害慰謝料(裁判基準で2,800万円)とは別に、配偶者、子供、両親などのご家族固有の精神的苦痛に対する「近親者慰謝料(数百万円〜一千万円以上)」を上乗せして請求することが可能です。
まずは「成年後見人」の選任からスタート
示談交渉や裁判を始めるためには、意思表示ができない被害者本人に代わって手続きを行う「成年後見人」を家庭裁判所で選任してもらう必要があります。
選任の手続きには、医師の診断書や戸籍謄本など膨大な書類の準備が必要となり、ご家族だけで介護と並行して行うのは極めて困難です。
ご家族の皆様へ:すべてを背負い込まないでください
遷延性意識障害の被害者を抱えたご家族は、「本人が一番苦しいのだから、自分が頑張って介護しなければ」とすべてを背負い込み、保険会社との冷酷な交渉にも心をすり減らしてしまいます。
夕陽ヶ丘法律事務所では、こうした最重度後遺障害の事案に対して、成年後見人の申し立て手続きから、数億円規模となる将来介護費用の緻密な立証、過酷な裁判の代理まで、持てる専門知識のすべてを注ぎ込んでご家族をサポートいたします。 「今後の長い介護生活の資金をどうすればいいのか」という不安を少しでも軽くするために、まずは私ども弁護士にご相談ください。病院への出張相談も承っております。