【論点】既判力と実務
2025/04/05 更新
既判力
(1)既判力は、主文に包括するものに限り生じる(114条1項)。既判力は、当該確定判決に係る訴訟物たる権利又は法律関係の存否について及ぶ。
(2)既判力とは、確定判決が後日の訴訟に及ぼす拘束力である。既判力の作用としては、後日の訴訟にて、当事者が、訴訟物たる権利又は法律関係の存否について争えないこと(消極的作用)と、後日の訴訟にて、裁判所が訴訟物たる権利又は法律関係の存否について矛盾した判断ができない(積極的作用)がある。
既判力の時的範囲
(1)既判力の基準時は、当該確定判決に係る訴訟の口頭弁論終結時である 。
(2)確定判決の基準時以後に生じた事由を主張することは、前訴の確定判決の既判力に抵触しない。
既判力の人的範囲
(1)既判力は、当該確定判決に係る訴訟の当事者に限られるのが原則である。
(2)民事訴訟法115条1項に規定される者や訴訟脱退者(48条、50条、51条)にも拡張して及ぶ。
民事訴訟法115条 (確定判決等の効力が及ぶ者の範囲) 1項 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。 一 当事者 二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人 三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人 四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者 2項 前項の規定は、仮執行の宣言について準用する |
既判力の物的範囲
(1)既判力は、主文に包括するものに限り生じる(114条1項)。
(2)既判力は、当該確定判決に係る訴訟物たる権利又は法律関係の存否について及ぶ。
(3)相殺の主張を除いて(114条2項)、既判力は理由中の判断には及ばない 。
民事訴訟法114条 (既判力の範囲) 1項 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。 2項 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。 |
既判力の物的範囲の例
例 訴訟物 令和6年3月3日、AとBが締結した「◯を500万円で売買する」旨の契約契約に基づく、500万円を売買請求権 主文 被告は原告に対し300万円を支払え。 既判力が及ぶ範囲 (1)「令和6年3月3日、AとBが締結した「◯を500万円で売買する」旨の契約契約に基づく売買請求権(300万円)が存在すること及び、同額を超えて存在しないこと」が既判力の客観的範囲である。 (2)後日の訴訟にて、当事者は上記について争えない(消極的作用)。 (3)後日の訴訟にて、裁判所が上記と矛盾した判断ができない(積極的作用)。 |
既判力の作用と、具体的なケース
1 基準時の権利の存否についての主張
例えば、確定判決で存在しないとされた権利について、既判力が及ぶ当事者間の後訴において、それが基準時に存在したと主張すること
は、前訴の確定判決の既判力に抵触して許されない(消極的作用)。
例えば、確定判決で存在したされた権利について、既判力が及ぶ当事者間の後訴において、確定判決で確定していることを主張すれば、(既判力は職権調査事項であるから)その事実は存在すると認定される(積極的作用)。
2 前訴と同一の訴訟物での訴訟提起
(1)前訴で敗訴した原告が、 同一の訴訟物で、 同一の被告に対し 後訴を提起した場合、請求は棄却される。
(2)前訴で勝訴した原告が、同一の訴訟物で、 同一の被告に対し、 後訴を提起した場合には、(時効の完成猶予等の特別な事由がない限り) 訴えの利益が欠けるから、訴えが却下される
既判力の時的範囲と、基準時前に発生した事由に基づく基準時後の形成権行使
遮断効
(1)遮断効とは、基準時以前に存在した事情に基づいて、後日の訴訟にて、当事者が既判力ある判断を争えないことと、仮に、後日の訴訟にて当事者がこのような主張を舌としても、裁判所はその主張を審理せずに排除する既判力の作用のことである。
(2)例えば、原告の代金支払義務を認める判決が下され、それが確定すれば、被告は口頭弁論が終結する前にすでに弁済していたことや、売買契約の無効、時効(による消滅)といった、口頭弁論終結時にすでに存在していた事実を主張しても認められない。
(3)例えば、口頭弁論終結後に、売買契約の取消権を行使した場合、実体法上は基準日後にその効力が発生する。しかし、紛争の蒸し返しよる裁判所や相手方当事者の負担を考慮すれば、基準時前に発生した事情に基づいて取消権等の形成権の行使が認められるか問題となる。
形成権
基準時前に発生した事情に基づいて、既判力によって遮断され、後訴で取消しの主張をすることはできない。(最三小判昭和36年12月12日民集15巻11号2778頁 (書面によらない贈与の解除)、最一小判昭和55年10月23日民集34巻5号747頁 (詐欺取消し))。
解除
解除の場合にも、同様に考えることになるだろう。
(岡口基一「要件事実マニュアル(第7版)第1巻 総論・民法1」134頁では、基準時前に履行遅滞になっていたが,、催告はしていなかった場合、解除権が発生していないから、 基準時後に催告をして解除したことを後訴で主張することができる、との判例が紹介されている。しかし、一般的には、取消しと解除で特に別に考える必要はない、と考えられている。)
相殺と、建物買取請求権
例外的に、相殺 (最二小判昭和40年4月2日民集19巻3号539頁)、建物買取請求権の行使 (最二小判平成7年12月5日民集49巻10号3051頁) は、基準時に発生していた事情にあたるとしても、基準日後に行使することができる。
相殺は自働債権が消滅する。建物買取権の行使も建物の明け渡しが認められている。これらの形成権については、確定判決における原告の請求によって、被告が不利益を受ける結果は変わらない、という特徴がある。
4 予測し得なかった後発後遺症
人身損害賠償請求の判決の確定後に、予測し得なかった後遺症が判明したよ うな場合,、判例 (最三小判昭和42年7月18日民集21巻6号1559頁) は、明示のある一部請求の問題と捉え、 当該後遺障害に係る損害賠償請求の後訴を認める。
参考
岡口基一「要件事実マニュアル(第7版)第1巻 総論・民法1」131頁以下