【基本】当事者の確定
2025/04/13 更新
当事者の確定
1 当事者の実在と、送達
訴状送達時に訴状記載の当事者が実在すること、訴状記載の被告に訴状が送達されたことは、訴訟要件である。
2 形式的当事者当事者概念
(1)民事訴訟上の「当事者」は、実体法上の権利主体のことではない、訴状で記載された当事者のことである(形式的当事者概念)。
(2)したがって、審理の結果、被告が借り主ではなく第三者であることが分かった場合には、訴訟要件を欠くのではなく請求棄却となる(本案判決)。
3 当事者の確定が問題となる事案
(1) (ア)訴状に記載された当事者(原告と被告)が、(イ)当事者として裁判上活動する(被告として訴状を受けることを含む)のが原則である。これを欠く場合には、当事者の確定の問題が生じる。
(2)民事訴訟法106条の要件を満たす同居人が、被告に代わって訴状を受け取ったが、これを被告本人に渡さずに判決が確定してしまっても、補充送達として被告に送達されたことなる。
この場合は、送達の有効性の問題である。
(3)当事者の同一性があれば、表示の訂正の問題である(事件の内容や、住所の記載等から同一性を判断できる場合がある)。氏名の誤記なども、当事者の問題ではない。
当事者の確定の問題
(1) (ア)訴状に記載された当事者(原告と被告)が、(イ)当事者として裁判上活動する(被告として訴状を受けることを含む)のが原則である。これを欠く場合には、当事者の確定の問題が生じる。
(2)訴状の到達時に、訴状に記載されていた原告または被告が死亡していたときに、問題となる(死者名義訴訟)。
(3)訴状の到達時に、第訴状に記載されていた原告または被告の名前を騙って、第三者が裁判所で訴訟を活動をして、誰も気がつかないまま判決が確定したとき等に、問題となる(氏名冒用訴訟)。
当事者の確定と、その解決1
1 死者名義訴訟
(1)訴状の到達時に、訴状に記載されていた原告または被告が死亡した場合(死者名義訴訟)、訴訟手続としてどのような場合について、どのように考えるか。
(2)民事訴訟では、訴状が被告に送達されて訴訟事件が係属する。したがって、訴状の送達時に原告と被告が存在することが前提となっている。しかし、被告への訴状送達前に、訴状に記載されていた原告または被告が死亡した場合(死者名義訴訟)には、当事者を欠くことになる。
(3)訴訟係属後に、当事者が死亡した場合には訴訟手続の受継(124条)という制度もある。
(4)もっとも、訴訟係属後に、当事者が死亡した場合には、同制度の適用はない。原告は、本来の被告に対し訴状を送達し直すところからやり直すのが手続として堅いことになる。
(1)訴状記載の被告に訴状が送達されていない場合には、訴状の送達がなく、訴訟要件を欠く。別人が訴状を受け取ったことや、別人が当事者に代わって訴訟活動を行ったことは、訴訟手続の受継(124条)という制度では説明がつかないので、同様の結論となる。 |
2 任意的当事者変更
(1)訴状記載の当事者(原告、被告)とは別の者が、裁判所で当事者として活動したが、本来の当事者が、あえてその者の訴訟手続を引き継ぐ任意的当事者変更という手続きがある。その手続の法的性質については、どう考えるのか。
(2)訴えの変更(143条)は当事者の変更を含まない。また、従来の当事者とは異なる者が訴訟を引き継ぐ訴訟係属(50条1項、51条)があるが、同制度は、このような場合を想定していない。
(2)したがって、訴訟手続をはじめからやり直すのが適切であるから、任意的当事者変更については、新訴の提起と旧訴の取り下げが併存する複合行為であるとされる。
民事訴訟法124条(訴訟手続の中断及び受継) 1項 次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は、訴訟手続を受け継がなければならない。 一 当事者の死亡 相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人その他法令により訴訟を続行すべき者 二 当事者である法人の合併による消滅 合併によって設立された法人又は合併後存続する法人 三 当事者の訴訟能力の喪失又は法定代理人の死亡若しくは代理権の消滅 法定代理人又は訴訟能力を有するに至った当事者 (省略) 2 前項の規定は、訴訟代理人がある間は、適用しない。 3 第一項第一号に掲げる事由がある場合においても、相続人は、相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことができない。 (省略) |
コラム 実務的な感覚としては、別訴訟となったとしても、前の訴訟の書面を出し直せば、前の訴訟から引き続いて審理を進めることができる。訴訟の遅延はほとんどないだろう。 訴訟手続をはじめからやり直すのが一番手堅いとして、任意的当事者変更を「新訴の提起と旧訴の取り下げが併存する複合行為である。」と考えるのは納得である。 |
当事者の確定と、その解決2
1 判決の有効活用
(1) (ア)訴状に記載された当事者(原告と被告)が、(イ)当事者として裁判上活動する(被告として訴状を受けることを含む)のが原則である。これを欠く場合には、当事者の確定の問題が生じる。
(2)しかし、訴状に記載された当事者(原告と被告)とは別の者が、裁判所にて当事者として活動した場合には、当事者の定義を修正して、その者に対し判決効力を及ぼすのが妥当ではないだろうか。
(3)訴状の到達時に、訴状に記載されていた原告または被告が死亡する(死者名義訴訟)事案は起こり得る。そのときに、相続人が、被告名義のまま訴訟活動をしたり、第一審で敗訴して訴訟手続の違法を主張することがある。
2 当事者の基準を議論するケース
(1)①訴状に記載された当事者(原告、被告)が訴訟の当事者となる(表示説)と考えれば、(ア)訴状に記載された当事者(原告と被告)が、(イ)当事者として裁判上活動する(被告として訴状を受けることを含む)のが原則である。これを欠く場合には、訴訟要件を欠くことなる。
(2)これに対して、訴状記載の被告Aが死亡し、唯一の相続人がBだとする。BがAを名乗って応訴したことをもって、訴訟の当事者とは、裁判所で当事者として活動する者をいう(行動説)と考えて、当事者はBでありBに判決の効力が及ぶ、という考え方もできる。
(3)実体法で考えたときに、被告Aが死亡すれば、その地位を相続人であるBが引き継ぐ。原告の意思を合理的に考えれば、被告人Aが死亡していたのであれば、被告は相続人(のB)である(意思説)と考えて、当事者はBでありBに判決の効力が及ぶ、という考え方もできる。
3 当事者の基準の各説
(1)当事者の基準にはどのような説があるのか。
(2)基本的な考え方として、以下の3つの考え方がある。
①訴状に記載された当事者(原告、被告)が訴訟の当事者となる(表示説)
②原告の意思によって当事者が決まる(意思説)
③裁判所で当事者として振る舞った者である(行動説)
(2)もっとも、意思説や、行動説では、どのような意思、どのような行動で当事者が決まるのか明確にならない。
したがって、当事者とは、訴状に記載された当事者とする考え方(表示説)が通説である。
(1)訴状の到達時に、訴状に記載されていた原告または被告が死亡する(死者名義訴訟)事案については、裁判例は統一的な見解を採用していない、とも言われる。 (2)最判昭和41・7・14民集20巻6号1173頁は、訴状送達前に被告が死亡した場合において、 その相続人が第1審で訴訟承継の手続をとり、控訴審まで訴訟遂行しながら、上告審で訴状送達前の被告の死亡を主張することは、信義則上許されないとした。 この事案は意思説や行動説によると、当初から相続人が被告であったことになる。 (3)死者を被告とする訴訟において,、原告の意思を実質的に解釈し、または相続人の行動等や、訴訟経済等を考慮して、 実質上の被告は相続人であると解し, 表示の訂正を認めるものが多い。 (3)これに対して、表示説の立場に立ち、表示の訂正は認められないとして、死者を被告とする訴えを却下するもの (東京高判昭和54・8・30判時943号 60頁) や,、表示説を採用 し、判決確定後に被告死亡の事実が判明した場合に, この判決の効力は相続人に及ばないとするもの (神戸地判 昭和29・5・7下民集5巻5号665頁) がある。 (4)裁判例の見解が統一的ではないが、これは具体的な事案解決の妥当性を目指した結果だとも言われている。 参考 高田裕成 ほか「民事訴訟法判例百選(第6版)14頁 |
コラム (1)表示説の中でも、訴訟の記載を当事者欄だけでなく、請求の趣旨、請求源を含めて客観的に合理的に解釈するべき、とする実質的表示説もある。 (2)なお、実質的表示説については、意思説と大差なくなるという批判もある。 参考 遠藤賢治「事例演習民事訴訟法 第3版」25頁以下 |
当事者の確定と、その解決3
1 問題の本質
(1) (ア)訴状に記載された当事者(原告と被告)が、(イ)当事者として裁判上活動する(被告として訴状を受けることを含む)のが原則である。これを欠く場合には、本来の被告はどのような救済を受けることができるか。
(2)これらの問題の本質は、本来の被告において、訴状の送達を受けておらず、反論の機会がなかったことである。
2 学説
(1)訴状の送達等が無効であっても、形式的には既判力が生じている。訴状が送達されていないことは、無権代理人が訴訟活動したことで、手続きに関与することができなかったことに準じる(民事訴訟法338条1項)。誤った既判力の効力を無効にすることを前提とした、再訴によるべきである、という考え方もある。
(2)加えて、民事訴訟法338条1項の但書によれば、控訴が出来る場合には、控訴の手続きによるべきとされている。したがって、控訴の手続ができる場合には、再訴の手続きは使えないという考え方もある。
もっとも、訴訟送達等がされていない場合には、第一審での手続保障を全く欠くことになるから、同但書は適用されない、という考え方もある。
(3)これに対して、訴状の送達は無効であるから無効な判決には既判力が生じない。既判力を前提とする再訴の手続に限定されない。不当な判決については広く救済を求めるべきであり、控訴の提起、執行訴訟(請求異議の訴え)、再訴どれも利用できる、という考え方もある。
参考
越山和広「ロジカル演習 民事訴訟法」 120頁
名津井吉裕ほか「事例で考える民事訴訟法 」4頁以下
民事訴訟法338条(再審の事由) 1項 次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。 (省略) 三 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。 2項 前項第四号から第七号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。 33項 控訴審において事件につき本案判決をしたときは、第一審の判決に対し再審の訴えを提起することができない。 |