【重要判例】判例(業務執行組合員の任意的訴訟担当)
2025/04/16 更新
昭和45年11月11日民集 24巻12号1854頁
事案
(1)Xらは水害復旧工事の請負及びこれに付随する事業を共同で営むことを目的として、民法上の組合であるA企業体を結成した。
(2)A企業体の規約上、代表者たるXは、建設工事の施工に関し企業体を代表して発注者および監督官庁等の第三 者と折衝する権限ならびに、自己の名義をもって請負代金の請求受領およびA企業体に属する財産を管理する権限を有するものと定められていた(なお、A企業体として訴訟する権限は明記されていなかった。)。
(3)A企業体はYとの間で工事請負契約を締結したが、Yが当該請負契約を一方的に打ち切ったため、Xは Yに対し、A企業体(民法上の組合)の業務執行組合員として、A企業体が被った損害について損害賠償請求する旨の提起した。
(4)Xが、A企業体が被った損害について損害賠償請求する旨の提起する当事者適格があるか問題となった。
判決
任意的訴訟担当「については、民訴法上は、同法47条が一定の要件と形式のもとに選定当事者の制度を設けこれを許容しているのであるから,、通常はこの手続によるべきものではあるが、 同条は、任意的な訴訟信託が許容される原則的な場合を示すにとどまり、同条の手続による以外には、任意的訴訟信託は許されないと解すべきではない。 すなわち、 任意的訴訟信託は、民訴法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法 11条 〔現行10条〕 が訴訟行為を為さしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなくかつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないと解すべきである。
そして、民法上の組合において、組合規約に基づい て、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合には、単に訴訟追行権のみが授与されたものではなく、実体上の管理権、対外的業務執行権とともに訴訟追行権が授与されているのであるから、業務執行組合員に対する組合員のこのような任意的訴訟信託は、弁護士代理の原則を回避し、または信託法11条の制限を潜脱するものとはいえず、特段の事情のないかぎり、合理的必要を欠くものとはいえないのであって、民訴法47条による選定手続によらなくても、これを許容して妨げないと解すべきである。 」
「そして、本件の・・・・・・ 事実関係によれば、民法上の組合 たる前記企業体において、組合規約に基づいて自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を執行する権限を与えられた業務執行組合員たる Xは、組合財産に関する訴 訟につき組合員から任意的訴訟信託を受け、本訴につき自己の名で訴訟を追行する当事者適格を有するものとい うべきである。」
解説
1 民法上の組合が訴訟する手段
民法上の組合は訴訟するには、以下の方法がある。Xは、組合の代表者として、紛争前は自分の名前で活動していた。したがって、紛争時にも、自分の名前で業務執行組合として当事適格を取得することを考慮した。
(1)組合員全員で原告または被告となることができる。(この場合には、固有必要的共同訴訟となる。)
(2)判例は、代表者の定めがある民法上の組合は、民事訴訟法29条の「法人でない社団」として当事者能力を認められる(最判昭和37年12月18日民集16巻12号2422頁)。つまり、組合の名前で訴訟活動ができる(当事者能力)。
(3)業務執行組合員は、組合規約に基づいて、自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を遂行する権限を与えられていれば、組合財産に関する訴訟につき、任意的訴訟担当として、自己の名(業務執行組合員)で訴訟活動ができる(最判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁)(任意的訴訟担当)。
2 任意的訴訟担当
(1)では、Xは、業務執行組合員として、組合の任意的訴訟担当となることができるか。
(2)任意的訴訟担当を広く認めると、第三者が他人の訴訟活動をすることができ、弁護士資格制度を骨抜きにしかねねない。無資格者が訴訟活動を代行すれば、司法制度が混乱するだろう。
最判昭和45年11月11日民集24巻12号1854頁(以下、「本判決」という。)は、法律の定めのない任意的訴訟担当を認めるには、弁護士資格制度等を骨抜きにしないこと、その者を任意的訴訟担当とする合理的必要性が必要であるとした。また、「業務執行組合員は、組合規約に基づいて、自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を遂行する権限を与えられている」場合には任意訴訟担当を認めた。これは、平常時において当事者として業務遂行をしていた者に対し、紛争時においても当事者として活動することを認めるものであり、事情を一番知る者としてこれを認める合理的必要性があると判断したものである、との説明が可能である。また、合理的必要性がある場合に限って任意的訴訟担当を認めるのであれば、弁護士代理の原則にも反しないだろう。
3 業務執行組合の授権
(1)本判決では、「民法上の組合において、組合規約に基づい て、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、組合財産に関する訴訟を追行する権限が授与されている場合」という言葉を使っている。
(2)しかし、本件の事案では、組合の規約で、平常時おいて、組合の代表者として第三者と折衝し、自分の名前で請求書を出して、入金を受け取る権限を持っていた過ぎない。
(3)本判決は、平常時の業務の権限を与えられたことから、紛争時に訴訟する権限が与えられたことを読み取れる、と解釈していることも注目に値する。
参考
「民事訴訟法判例百選(第6版〕)」28頁以下
4 判決の効力
(1)業務執行組合の訴訟行為が、第三者である他の組合員になぜ及ぶのか、問題となる。
(2)任意的訴訟担当は、業務執行組合員が、組合のための訴訟担当をしたものである。したがって、組合に対する判決の効力は、当事者である社団(115条1項1号)のみならず、その構成員にも及ぶ(115条1項2号)と説明することになる。