【重要判例】判例(所有権と弁論主義と釈明権)
2025/04/21 更新
所有権と弁論主義
(1)所有権の取得事由や、所有権喪失事由についても、当事者が主張していない事実を認定することは弁論主義違反となる。したがって、裁判所が真実と考える事実を認定できない場合には、そのような事実主張をするように釈明権を行使すべき、ということになる。
(2)なお、所有権確認訴訟においては、所有権所得原因ごとに訴訟物を構成するのではなく、所有権の存否が訴訟物となり、所有権一切の存否について既判力が生じる。したがって、後訴訟にて、当事者が主張していない主張を追加して、前訴訟で確定した所有権の存否について争うことは許されない。
釈明権を行使しないことの違法
(1)最判昭和46年6月11日民集24巻6号516頁を考慮すれば、釈明権の不行使が違法となるのは、①提出ずみの証拠等からすれば出されるべき結論と、当事者が主張しないことによって、弁論主義等の問題から裁判所が出すことができる結論に違いがあり、②当事者が主張を正せば、その結果が大きくことなり、③そのような主張をしないことが明らかに原告の誤解または不注意と認められるようなときということになる。
処分権主義や弁論主義により、裁判所が真実だと考える事実を認定できないケース
最判昭和55年2月7日民集34巻2号123頁 1 事案と判決 (1)原告は、「BからAが土地を購入し、Aが死亡したので、原告らが所有権を取得した」と主張した。・・・① (2)これに対して、被告は、「Bから土地を購入したのはAではなく、Cである。」と主張した。 (3)原判決は「AがCから贈与を受けた。」と認定した。・・・② (4)最高裁は、所有権の取得事由や、所有権喪失事由も主要事実であるから、原判決が当事者の主張していない事実を認定したことが弁論主義違反であるとした。 2 主張事実の整理 (1)抗弁となるのは請求原因から生じる法律効果を妨げること、被告に立証責任があること、請求原因と両立することが必要である。両立しない事実であれば否認である。 (2)①と②の主張は両立するので、裁判所の認定しようとする②の事実は、抗弁となる。 (3)②の事実は、当事者の主張しない主張事実となる。 (4)したがって、裁判所が②の事実を認定することは弁論主義違反となる。 3 解説 原判決は釈明権を行使して、「AがCから贈与を受けた。」という心象を抱いているので、これを事実として主張する予定があるかも確認すべき事案であった。 参考 小林秀之「新法学ライブラリ 10 民事訴訟法 第2版」293頁 田中豊 「論点精解 民事訴訟法〔改訂増補版〕」 130頁以下 |
相手方の援用しない自己に不利益な事実の主張によれば、少なくとも当事者が主張しない事実が真実であると認定できるケース
最判平成9年7月17日判時1614号72頁 事案 (1)Aが死亡し、Xは相続人である。 (2)Xは、自分が建物を建築したとして、Yに対し建物単独所有権の確認と、所有権に基づく登記請求訴訟を提起した。 (3)Yは、亡Aが建物を建築したと主張したが、Xはこれを争った。 実体法上の整理 Yの主張が正しいとすれば、少なくとも、Xは亡きAの相続人として、当該建物の共有持分を有することになる。 訴訟の経緯 (1)Xは上記の主張をしなかった。 (2)原判決は、Xに単独所有権が認められないとして、Xの請求を棄却し、Xが上告した。 判決の解説 1 既判力 (1)共有物は所有権の一部であるから、原告の所有権確認請求の中に共有持分の確認を求める趣旨も含まれる。 (2)したがって、本判決が確定してしまうと、所有権一切が認められないことが確定しすることになり、後訴訟にて、「Xは亡きAの相続人として当該土地の共有持分を取得した。」という主張ができなくなる。 2 弁論主義違反 (1)原告は単独所有権を主張している。原判決の裁判所は、原告に共有持分があると認定することはできないのか。 (2)所有権の取得事由や、所有権喪失事由についても、当事者が主張していない事実を認定することは弁論主義違反となる。したがって、原告が、「Xは亡きAの相続人として当該土地の共有持分を取得した。」と主張していない 以上は、上記の認定をすることは、弁論義務違反となる。 3 釈明義務違反 (1)本件では、Yの主張が正しいとすれば、少なくとも、Xは亡きAの相続人として、当該建物の共有持分を有することになる(相手方の援用しない自己に不利益な事実の主張)。 (2)したがって、最高裁は、「Xは亡きAの相続人として当該土地の共有持分を取得した。」と主張しないか、Xに釈明すべき義務があった、という釈明義務違反を認めた。 参考 名津井吉裕 「事例で考える民事訴訟法」26頁以下 田中豊「論点精解民事訴訟法 要件事実で学ぶ基本原理」9頁以下 「民事訴訟法判例百選(第6版)」98頁以下 |
釈明義務違反を理由に、既判力の減縮が認められるか。
最判平成9年3月14日判時1600号89頁 事案 (1)Aが死亡し、XとYは相続人である。 (2)Xは、Bから土地を購入したとして、Yに対し当該土地の単独所有権の確認と、所有権に基づく登記請求訴訟を提起した。・・・① (3)Yは、亡AがBから土地を購入後に、Yに贈与したと主張した。・・・② 実体法上の整理 (1)Yへの贈与が認められない場合、Xは亡きAの相続人として、当該土地の共有持分を有する、と解する余地がある。 (2)抗弁となるのは請求原因から生じる法律効果を妨げること、被告に立証責任があること、請求原因と両立することが必要である。両立しない事実であれば否認である。 (3)①と②の主張は両立しないので、Yの主張は、抗弁ではなく否認である。したがって、②のYの反論は主要事実とならない。 訴訟の経緯 (1)Xは上記の主張を援用しなかった。 (2)裁判所は、亡AがBから土地を購入したが、Yに贈与したとは認定できないとした。 (3)裁判所は、Xに単独所有権が認められないとして、Xの請求を棄却し、同判決が確定した。 (4)その後、Xは亡きAの相続人として、当該土地の共有持分に基づいてYに対し共有持分の登記請求訴訟を提起した。 判決 (1)所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定したときは、原告が同訴訟の事実審口頭弁論終結の時点において目的物の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じるから、原告がその時点以前に生じた所有権の一部たる共有持分の取得原因事実を後の訴訟において主張することは、確定判決の既判力に抵触する。 (2)Xは、前訴において、本件土地につき売買および取得時効による所有権の取得のみを主張し、事実審口頭弁論終結時以前に生じていたAの死亡による相続の事実を主張しないまま、 Xの所有権確認請求を棄却する旨の前訴判決が確定したというのであるから、 Xが本訴において相続による共有持分の取得を主張することは、前訴判決の既判力に抵触し、許されない。 解説 1 単独所有権の確認の訴えの既判力は、共有持ち分の確認の訴えに及ぶか。 (1)前訴訟における、単独所有権を主張する所有権確認請求訴訟と、後訴訟における、共有持分に基づく当共有持分の登記請求権は所有権の一部であるとして訴訟物が一致する。したがって、前訴訟で、所有権一切が認められないことが確定していることから、後訴で、共有持分があると主張することは既判力に反するとした。 (2)これについては、判決は、所有権確認訴訟においては、所有権所得原因ごとに訴訟物を構成するのではなく、所有権の存否について既判力が生じること、共有物は所有権の一部であるから、所有権確認請求の中に共有持分の確認を求める趣旨も含まれること、を前提にしている。 したっがって、所有権確認訴訟においては、所有権所得原因ごとに訴訟物を構成するのではなく、所有権の存否が訴訟物となり、所有権一切の存否について既判力が生じる。したがって、後訴訟にて、当事者が主張していない主張を追加して、前訴訟で確定した所有権の存否について争うことは許されない。 2 前訴訟での審理の問題 (1)前訴訟で、原告は単独所有権を主張していた。前訴訟の裁判所は、原告に共有持分があると認定することはできないのか。 (2)所有権の取得事由や、所有権喪失事由についても、当事者が主張していない事実を認定することは弁論主義違反となる。したがって、原告が、「Xは亡きAの相続人として当該土地の共有持分を取得した。」と主張していない以上は、上記の認定をすることは、弁論義務違反となる。 (3)しかし、裁判所は、「Xは亡きAの相続人として当該土地の共有持分を取得した。」と主張しないか、Xに釈明すべき義務があったのではないか、という疑問が生じる。 3 訴訟物が同じでも既判力が及ばない (1)これを考慮すれば、裁判所の釈明義務違反がある以上は、前訴訟の既判力は例外的に及ばない、という結論も有り得たのではないか、と指摘されている(例外を認めるパターン)。 (2)これ対して、釈明義務が尽くされなくなった結果としてXの敗訴が確定した場合、釈明義務の対象となる事項については規範力が及ばず、後訴で審判対象になる、という考えもある(既判力を縮小させるパターン) 参考 越山和広「ロジカル演習 民事訴訟法」 135頁 名津井吉裕 「事例で考える民事訴訟法」26頁以下 田中豊「論点精解民事訴訟法 要件事実で学ぶ基本原理」9頁以下 「民事訴訟法判例百選(第6版)」247頁以下 |