この記事の要点まとめ
昭和55年廃止の種痘(乱刺法・切皮法)とBCG皮内法の痕の形状類似性、医師意見書での評価。
予防接種痕の証明における「種痘」と「BCG」
B型肝炎訴訟において、満7歳までに集団予防接種等を受けたことを証明する手段の一つとして、「接種痕(腕に残る注射の痕)」の存在が重視されます。母子健康手帳などの記録がない場合、医師に「接種痕意見書」を作成してもらうことで、集団予防接種を受けた事実を推認させることが可能です。
その際、医師が主に確認するのが「種痘(天然痘予防接種)」と「BCG(結核予防接種)」の痕です。しかし、これら二つの接種痕は、接種方法や残る痕の形状において似ている部分があり、長い年月を経た現在では見分けることが難しいケースもあります。本記事では、種痘とBCGの接種痕の違いや、判別が難しい場合の医師意見書での評価について解説します。
種痘とBCGの接種方法の違いと痕の特徴
まずは、それぞれの予防接種が当時どのような方法で行われ、どのような痕が残るのが一般的なのかを整理しましょう。
1. 種痘(天然痘予防接種)の痕の特徴
種痘は、天然痘の撲滅に伴い昭和51年(1976年)に定期接種としての規定が廃止され、その後段階的に行われなくなりました。当時の接種方法には主に「乱刺法」や「切皮法」といった手法が用いられていました。
- 乱刺法・切皮法とは:皮膚に浅い傷をつけ、そこにワクチンをすり込む方法です。
- 痕の形状:接種部分が化膿してかさぶたになり、それが剥がれ落ちた後に、直径1〜2センチ程度の円形または楕円形の「少し凹んだ瘢痕(はんこん)」が残るのが特徴です。
2. BCG(結核予防接種)の痕の特徴
BCGの接種方法には、現在主流となっている「管針法(スタンプ注射)」のほかに、かつては「皮内法(皮内注射)」という方法も行われていました。
- 管針法(スタンプ法):9本の針がついたスタンプを2回押し付ける方法。18個の点状の痕が残るため、一目でBCGと分かりやすいのが特徴です。
- 皮内法(皮内注射):皮膚の浅い層(真皮)に直接ワクチンを注射する方法です。注射した部分が化膿し、治癒した後に大きな一つの瘢痕が残ります。
形状の類似性と判別の限界
問題となるのは、「種痘の痕」と「皮内法によるBCGの痕」の区別です。どちらも「化膿した後に、比較的大きめの円形・楕円形の瘢痕が一つ(または数個)残る」という共通点があります。
接種から数十年が経過している現在、皮膚の状態の変化や瘢痕の退色により、この二つを外見だけで正確に見分けることは、専門の医師であっても極めて困難な場合があります。これを「判別の限界」と呼びます。
医師意見書(様式3-3)での評価と訴訟上の扱い
では、種痘かBCGか判別できない痕は、B型肝炎訴訟において無効になってしまうのでしょうか? 結論から言えば、無効にはなりません。
医師が作成する「接種痕意見書(様式3-3)」には、痕の形状や大きさを具体的に記載する欄があります。たとえ「種痘痕かBCG痕かの確定は困難である」と医師が判断した場合でも、「いずれかの予防接種による痕(瘢痕)が存在することは間違いない」という所見が得られれば、それが集団予防接種等を受けたことの重要な証拠として扱われます。
国側もこうした医学的な判別の限界は認識しており、明確な区別がつかなくても、接種痕の存在自体が確認できれば、その他の事情(年代や陳述書の内容など)と総合して、集団予防接種等の事実を認める運用がなされています。
自己判断せず、まずは医師の診察を
「自分の腕にある痕が何の注射の痕かわからない」「痕が薄くて証明にならないかもしれない」と自己判断して給付金の請求を諦める必要はありません。まずは医療機関を受診し、医師の専門的な視点で意見書を作成してもらうことが第一歩となります。
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