【基本】弁論主義と処分権主義の違い
2025/04/25 更新
問題1(訴訟物の特定)
問題
(1)下記の訴状から、訴訟物を特定して下さい。
(2)なお、訴訟物は、訴状の「よって◯◯を請求する」(よって書き)等の訴状の記載により判断されます。
訴状 請求の趣旨 被告は、原告に対し100万円を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 との判決並びに仮執行の宣言を求める。 請求原因 1 消費貸借 (1)令和7年4月3日、原告は被告に対し、以下の条件100万円を貸し付ける合意をした。 返済日 令和7年7月末日 返済額 100万円 (2)令和7年4月3日、原告は被告に対し、100万円を銀行振込で送金する方法で支払った。 (3)令和7年7月末日は経過したが、被告は原告に返済しなかった。 2 結論 (2)よって、原告は、被告に対し、消費貸借に基づく貸金返還請求権として100万円の支払いを請求する。 |
回答
よって書「よって、原告は、被告に対し、消費貸借に基づく貸金返還請求権として100万円の支払いを請求する。」とあるので、消費貸借に基づく貸金返還請求件(として100万円の請求)が訴訟物です。
問2(処分権主義、弁論主義)
問題2-1
(1)物権の場合には、訴訟物は「A氏の下記住所の土地の所有権」と記載されます。
これに対して、債権の場合には、訴訟物は、「AとBとの間の、令和7年8月10日付成立の「令和7年6月20日までに100万円を返済する。」という内容の消費貸借契約に基づく返還請求権と記載されます。
(2)なぜ、 物権と債権の訴訟物の特定方法について、記載が違うのか答えなさい。
問題2-2
(1)原告は、令和7年5月10日付成立の消費貸借契約に基づく100万円の請求をしていました。
(2)これに対して、裁判所は、令和7年8月10日付成立の消費貸借契約に基づく100万円の請求であれば、認容できると考えました。処分権主義が問題となるのか。それとも、弁論主義の問題となるのか。
問題2-1についての回答
(1)訴訟物の特定は、物権と債権で異なります。
(2)物権の場合には、権利の主体と、権利の内容で特定します。物権は、絶対的かつ排他的権利であるから、同一人物に帰属する同一内容の物権は他に存在しないからです。
したがって、物権の場合には訴訟物は、「A氏の下記住所の土地の所有権」という形で特定することになります。
(3)これに対して、債権の場合には、権利義務の主体、権利の内容、発生原因で特定します。債権は相対的かつ非排他的権利であるから、同一主体及び同一内容であっても、発生原因が異なれば別個の権利となるからです。
したがって、債権の場合には訴訟物は、「AとBとの間の、令和7年8月10日付成立の「令和7年6月20日までに100万円を返済する。」という内容の消費貸借契約に基づく返還請求権という形で特定することになります。
参考
司法研修所「民事訴訟第一審手続の解説 第4版 事件記録に基づいて」4頁
問題2-2についての回答
(1)原告は、令和7年5月10日付成立の消費貸借契約に基づく100万円の請求をしていました。
(2)これに対して、裁判所は、令和7年8月10日付成立の消費貸借契約に基づく100万円の請求であれば、認容できると考えました。
(3)上記の訴訟物は、発生日が異なるので訴訟物が別となります。
(4)したがって、処分権主義の問題があり、裁判所は心象どおりの判決を下せません。
これは処分権主義の問題です。
参考
勅使川原和彦「読解 民事訴訟法」 21頁
問3(処分権主義、弁論主義)
問題3-1
(1)原告が、不法行為に基づく損害賠償請求に基づいて100万円の請求をしています。
裁判所は、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づいて、100万円の支払いを認めることができるか。
(旧訴訟物理論を前提に回答しなさい。)
(2)これは、 新訴訟物理論の場合にはどうなるのか。
問題3-2
(1)原告が、不法行為に基づく損害賠償請求として、車の修理代を100万円を請求しています。
これに対して、裁判所は、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料10万円を認めることはできるか。
なお、民法709条の不法行為請求について人損と物損の訴訟物は別である、という通説を前提に回答しなさい。
(2)原告が不法行為に基づく損害賠償請求として、治療費として30万円、慰謝料として30万円を請求しています。
これに対して、裁判所は、治療費20万円、慰謝料40万円であると認定することはできるか。
問題3-1の回答
(1)旧訴訟物理論は、実体法の権利(個々の請求権や形成原因ごとに別々に反省する形成権)ごとに訴訟物を構成すると考えます。
「不法行為に基づく損害賠償請求に基づいて100万円の請求」と、「債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づいて、100万円の請求」は訴訟物が異なります。
したがって、訴えの選択的併合がされていない限り、処分権主義に違反し、認められません (最判昭和 53年6月23判時897号59頁)。
(2)新訴訟物理論では、請求権競合の事案において、給付を求める法的地位(受給権)を訴訟物と考えます。新訴訟物理論では、 「不法行為に基づく損害賠償請求に基づいて100万円の請求」と、「債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づいて、100万円の請求」も両方とも訴訟物となっています。
したがって、原告の請求の範囲内で裁判所の認定が認定することになり処分権主義に反しません。裁判所は、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づいて、100万円の支払いを認めることができます。
問題3-2の回答
(1)原告が請求する車の修理代は物損です。これに対して裁判所が認定しようとしている慰謝料は人損です。民法709条の不法行為請求について、人損と物損の訴訟物は別です。
したがって、裁判所が、人損を認めることは処分権主義に違反し、認められません。
(2)原告が不法行為に基づく損害賠償請求として、治療費として30万円、慰謝料として30万円を請求しています。これは、人損として、合計60万円を請求するものです。
これに対して、裁判所は、治療費20万円、慰謝料40万円であると認定することは、人損として、合計60万円を認めようとするものであるから、処分権主義には反しません。
しかし、原告が、慰謝料として30万円しか請求していません。つまり、原告は、不法行為に基づく損害賠償請求権の要件事実である損害について慰謝料30万円としか主張していません。したがって、裁判所が慰謝料40万円を認定することは弁論主義に反します。
訴訟物 不法行為に基づく損害賠償請求権(人損) 請求原因 (1)被告の不法行為と原告の権利侵害 (2)原告の損害(慰謝料30万円) (3)(1)(2)の因果関係 |
参考
勅使川原和彦「読解 民事訴訟法」 26頁
問4(否認と抗弁)
問題4-1
(1)原告は、以下のように請求原因を主張しました。
(2)被告が、「被告は原告ではなく、Bからお金を借りた。」と反論しました。
裁判所は、「被告は原告からお金を借りたが、同債権はBへ譲渡された。」と考えました。
(3)原告も被告も、「被告は原告からお金を借りたが、同債権はBへ譲渡された。」と主張していませんが、裁判所がこれを認定することは弁論主義に反するでしょうか。
請求原因(消費貸借) (1)令和7年4月3日、原告は被告に対し、以下の条件100万円を貸し付ける合意をした。 返済日 令和7年7月末日 返済額 100万円 (2)令和7年4月3日、原告は被告に対し、100万円を銀行振込で送金する方法で支払った。 (3)令和7年7月末日は経過したが、被告は原告に返済しなかった。 |
問題4-2
(1)上記の事案で、裁判所は、「被告は原告からお金の贈与を受けた。」と考えました。
(2)原告も被告も、「被告は原告からお金の贈与を受けた。」と主張していませんが、裁判所がこれを認定することは弁論主義に反するでしょうか。
問題4-1の回答
(1)原告は、「被告は原告からお金を借りた。」という請求原因を主張している。・・・①
(2)「被告は原告からお金を借りたが、同債権はBへ譲渡された。」と考えた。・・・②
(3)抗弁となるのは請求原因から生じる法律効果を妨げること、被告に立証責任があること、請求原因と両立することが必要です。両立しない事実であれば否認です。
(2)①と②の主張は両立するので、裁判所の認定しようとする②の事実は、抗弁となります。
(3)②の事実は、当事者の主張しない主張事実となります。
請求原因 抗弁 原告と被告の消費貸借契約の成立 Bへの債権譲渡 |
(4)したがって、裁判所が②の事実を認定することは弁論主義違反となります。
問題4-2の回答
(1)原告は、「被告は原告からお金を借りた。」という請求原因を主張しています。・・・①
(2)裁判所は「被告は原告からお金の贈与を受けた。」と考えました。・・・②
(3)抗弁となるのは請求原因から生じる法律効果を妨げること、被告に立証責任があること、請求原因と両立することが必要です。両立しない事実であれば否認です。
(2)①と②の主張は両立しないので、②の主張は否認です。
裁判所が②の事実が認定できることを理由に、①の事実の成立を否定することは、弁論主義に違反しません。