【基礎】法定訴訟担当と債権者代位訴訟
2025/04/16 更新
当事者適格
(1)当事者適格は、訴訟物たる権利義務との関係において、訴訟の当事者となる資格である。
(2)当事者適格は、訴訟物たる権利義務の帰属主体に与えられるのが原則である。しかし、訴訟物たる権利義務の帰属主体に代わって、当事者適格が与えられる場合を訴訟担当という。
(3)債権者代位訴訟は、法律に定めがる法定訴訟担当の典型と言われる。
(2)法定訴訟担当については、訴訟物たる権利義務の帰属主体の同意がないところで、第三者が訴訟をすることになるから、訴訟物の権利義務の主体の手続保障の点が問題となる。
債権者代位訴訟
民法上、債権者代位訴訟を提起するには、以下の要件を満たすことが必要である(民法423条)。
①被保全債権の存在 ②債務者の無資力 ③被代位債権の存在(債務者の一身に専属する権利でも、差押えを禁じられた権利でもないこと) ④③の被代位債権の弁済期が到来していること ⑤債務者に訴訟告知したこと(民法423条の6) |
民法423条(債権者代位権の要件) 1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。 2項 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。 3項 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。 民法423条の2(代位行使の範囲) 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。 民法423条の3(債権者への支払又は引渡し) 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。 民法423条の4(相手方の抗弁) 債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。 民法423条の5(債務者の取立てその他の処分の権限等) 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。 民法423条の6(被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知) 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。 |
判決の効力と訴訟告知
(1)債権者代位は、法定訴訟担当であるから、債権者に対する判決の効力は、勝訴敗訴に関わらず、債権者代位訴訟の当事者である債権者(115条1項1号)のみならず、当該債権の帰属者である債務者にも及ぶ(115条1項2号)。
(2)債務者の手続保障のため、債権者は債務者に訴訟告知しなければならない(民法423条の6)。
(3)債権者代位訴訟の本判決の既判力は、勝訴敗訴に関わらず、他の債務者にも及ぶ。
訴訟上の和解、請求の放棄の制限
(1)債務者を訴訟に関与させずに、債権者が和解ができるのか、もしくは、和解ができるかその和解の効力が債務者に及ばないのかは問題となる。
参考
長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法 <第3版> 」7頁
(2)請求の放棄は認められない。
債権者代位訴訟の効力
1 債務者が先に権利行使しているとき
債務者自身が訴訟上の権利行使をしている場合、債権者代位訴訟を提起をすることは二重起訴の禁止に触れる (最判昭和37年2月15日裁判集民58号645頁)。
2 債務者の処分権
債権者代位権が行使された後も、債務者は、被代位債権についての処分権限が制限されないため、自ら権利行使をすることができる(民法423条の5前段)。債務者は、被代位債権の支払いを求めて債権者代位訴訟に対し共同訴訟参加できる(民事訴訟法52条)。
第三債務者も、債権者代位権が行使された後であっても、債務者に対して弁済することができる (民法423条の5後段)。
3 訴訟の参加
債務者は、債権者の債務者にトウする債権(被保全債権)の不存在を主張し、自ら第三債務者に対して訴訟上権利行使をするためには、債権者代位訴訟に独立当事者参加(権利主張参加 民事訴訟法47条1項)すべきである(最判昭和48年4月24日民集27巻3号596頁)。
他の債権者は債権者代位訴訟に対し共同訴訟参加できる(民事訴訟法52条)。
本訴訟が提起された後に、他の債権者が同一の債権を被代位債権として債権 者代位訴訟を提起することは二重起訴として許されない (民事訴訟142条) 。
参考
岡口基一「要件事実マニュアル(第7版)第1巻 民法1」586頁