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民事訴訟

【基礎】釈明権(各論)

2025/04/21 更新

裁判所が釈明権を行使しないことが違法となるのか。

 最判昭和46年6月11日民集24巻6号516頁を考慮すれば、釈明権の不行使が違法となるのは、①提出ずみの証拠等からすれば出されるべき結論と、当事者が主張しないことによって、弁論主義等の問題から裁判所が出すことができる結論に違いがあり、②当事者が主張を正せば、その結果が大きくことなり、③そのような主張をしないことが明らかに原告の誤解または不注意と認められるようなときということになる

留置権、同時履行の抗弁権(権利抗弁)

(1)同時履行の抗弁を主張する(民法533条)には、同時履行の抗弁権を行使するという権利主張が必要である。

(3)留置権の抗弁を主張する(民法295条)には、①当該物によって生じた債権があること、②当該物を占有していること、③当該物が自分以外の所有物であること、④留置権を行為する、という権利主張が必要である。

(4)裁判所が権利抗弁を認定するには、当事者が権利行使を主張することが必要である。当事者がこれを主張していないのに裁判所がこれを認めることは弁論主義に反する。また、権利抗弁を主張するかは当事者の判断であるから、裁判所には、当事者に対し、権利抗弁を行使するかどうか確かめる義務はなく、これを確かめなかったとしても、釈明義務違反にもならない。

 留置権については、上記について判例がある(最判昭和27年11月27日民集6巻10号1062頁)

参考

 長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法 <第3版> 」108頁

時効の援用

(1)時効制度については、時効の援用の意思表示が必要である。民法は、債権者と債務者の利害関係について、時効の援用を債務者の判断に委ね、また、債務の承認があった場合には債権者を保護するなど、当事者の責任に委ねている。

(2)時効の援用についても、当事者がこれを主張していないのに裁判所がこれを認めることは弁論主義に反する。また、権利抗弁を主張するかは当事者の判断であるから、裁判所には、当事者に対し、時効を援用するかどうか確かめる義務はなく、これを確かめなかったとしても、釈明義務違反にもならない(最判昭和31年12月28日民集10巻12号1639頁)。

参考

 長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法 <第3版> 」108頁

公序良俗違反と信義則違反

(1)民法90条の「公序良俗違反」は法的評価である。これを基礎づける具体的事実が主要事実である(主要事実説)。

(2)公序良俗違反に違反する権利とは反社会的な権利主張である。当事者が主張しないからといって、このような権利行使を認めることはできない。したがって、当事者のどちらかが、具体的な事実を主張していれば、民法90条違反の主張がなくても、裁判所は民法90条違反を認定できる(最判昭和36年4月27日民集15巻4号901頁)。

(3)もっとも、当事者にとっては、公序良俗違反に違反するかどうか、を反論する機会を与えなければ不意打ちとなる。したがって、弁論主義違反とならないが、釈明義務違反となるという考えが有力である。

最判平成22年10月14日裁判集民法235号1頁

 具体的な事実を主張しているが、当事者の誰も、信義則違反になるとの主張をしていない場合、裁判所が信義則違反を認定することは弁論主義違反にはならいが、当事者に、「信義則違反にならない」という主張を反論の機会を与えなかったことが釈明義務違反となる。

信義則違反も、これを基礎づける具体的事実が主要事実である(主要事実説)。

参考

 長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法 <第3版> 」109頁

処分権主義や弁論主義により、裁判所が真実だと考える事実を認定できないケース

事例
 原告は、被告に対し100万円を貸し付けた。原告は、貸金名目でお金を騙しとたれたものであるから詐欺であるとして不法行為で被告を訴えた。

裁判所
 裁判所は、不法行為(詐欺)であるとは認定できないが、消費貸借契約に基づく貸金返還請求としては認定できると考えた。

問題点
 原告は、不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物としているから、裁判所が、消費貸借契約に基づく貸金返還請求として100万円の支払いを認定することは処分権主義に反する。
 したがって、この場合に、裁判所が原告に消費貸借契約に基づく貸金返還請求として100万円の請求に訴えを変更するように釈明をしてよいか。

結論
 最判昭和46年6月11日民集24巻6号516頁を考慮すれば、釈明権の不行使が違法となるのは、①提出ずみの証拠等からすれば出されるべき結論と、当事者が主張しないことによって、弁論主義等の問題から裁判所が出すことができる結論に違いがあり、②当事者が主張を正せば、その結果が大きくことなり、③そのような主張をしないことが明らかに原告の誤解または不注意と認められるようなときということになる。」
 したがって、裁判所としては、釈明権を行使すべき事案となるだろう。

参考
 長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法 <第3版> 」107頁以下

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