【基本】訴訟物(これらの訴訟物理論)
2025/04/13 更新
訴訟物
(1)訴訟物とは、裁判における審判の対象のことである。
(2)旧訴訟物理論は、実体法の権利(個々の請求権や(形成原因ごとに別々に反省する形成権)ごとに訴訟物を構成すると考える。
(3)新訴訟物理論では、請求権競合の事案において、給付を求める法的地位(受給権)を訴訟物と考える。
訴訟物論の相対化
(1)実務は旧訴訟物理論で定着しているが、新訴訟物理論での批判を受け入れて修正してきた。
(2)また、どの訴訟物理論を採るのかと立場と、各手続でどのような結論をとるか必ずしも一致しない、のではないか、という批判のされている。
裁判所の釈明権の範囲(法的観点指摘義務)
(1)当事者が主張していない法的主張ではあるが、裁判所は、その主張を認定することができるのではない、と考えるとき、その点を当事者に指摘して主張・立証するする機会を与える義務が生じるときがある(法的観点指摘義務)。
(2)新訴訟物理論によれば、別の請求権についても訴訟物は同一であるから、裁判所の釈明権の許容される範囲は広くなり、かつ、行使する義務が発生する範囲も広くなる。
(3)裁判所の釈明権の許容される範囲と、行使する義務は発生する範囲については、個別の事案での妥当性が重視される。したがって、具体的な事案の積み重ねによって明確にされるべきである。
(4)もっとも、その結論を出すにあたって、新訴訟物理論の観点による分析も、今後とも影響を与えるだろう。
訴訟物の範囲
(1)旧訴訟物理論と新訴訟物理論で、二重起訴や、蒸し返し訴訟の問題として、訴訟物の範囲が議論されてきました。
(2)実務は旧訴訟物理論を採用しながら、新訴訟物理論の観点での分析を踏まえて、実質的に前訴訟の蒸し返しにとなる訴訟については、信義則を活用して妥当な解決を図っている。
(3)実質的に前訴訟の蒸し返しにとなる訴訟となるかは、具体的な事案の積み重ねによって明確にされるべきである。
(4)信義則による調整がされるかについては、新訴訟物理論の観点による分析は今後も影響を与えるだろう。
訴訟物と要件事実
(1)新訴訟物理論を前提すると、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権(債務不履行責任)の主張立証をすると、特段の事情がない限り、同時に不法行為に基づく損害賠償請求権を主張立証したことにもなります。
(2)新訴訟物理論では、実体法を離れた裁判での要件事実を検討することになる、とも言われていました。しかし、この考え方は、確率した要件事実に修正を求めるものであり、混乱を招くと実務では敬遠されました。
(3)もっとも、法的観点指摘義務や、信義則による判決効の拡張を議論するのであれば、新訴訟物理論を前提とする事件のチェックが必要です。
旧訴訟物理論でも、例えば、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権(債務不履行責任)の主張立証をすると、特段の事情がない限り、同時に不法行為に基づく損害賠償請求権につついての具体的な事実の立証がされているわけです。
そうすると、裁判所としては、どんなケースで要件事実が重なるために、どんな釈明が必要なのかを類型的に把握して議論しておく必要があります。これがなければ、裁判所ごとに判断が変わっていします。
(5)これらについて、実体法と離れた要件事実だと説明するのか、判例の積み重ねと表現するのかは別にして、類体的に整理されていくことになるでしょう。
参考
小林秀之「新法学ライブラリ 10 民事訴訟法 第2版」297頁