【重要判例】判例(立退料支払と引換え給付判決)
2025/04/11 更新
最判昭和46年11月25日民集46巻8号1343頁
事案
(1)XはYに対し建物を賃貸していたが、老朽化等を原因に建物の賃貸借契約を解除し、建物の明け渡しを求めた。
(2)Xは訴訟にて、Yに対し300万円の立退料を提案する旨の準備書面を陳述した。
判決
(1)「本件賃貸借契約が、 期間満了前に Xからの適法な更新拒絶の意思表示のなかったことにより、期間満了後は期間の定めのない賃貸借となった旨の原判決の判断に違法はない。 」
(2)「Xが本件賃貸借契約の更新後に提起した本件訴訟において解約申入 れの主張を維持していることからして、」「準備書面をもって黙示に解約の申入れをした旨の原判決の判断に違法はない。 」
(3)「原審の確定した諸般の事情の下においては、XがYに対して立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し、かつその支払と引換えに本件店舗の明渡しを求めていることをもって、 X の」「解約申入れにつき正当事由を具備したとする原審の判断は正当である。」
解説
1 立退料の申出の法的性質
(1)立退料の申出は、正当事由という規範的構成要件の一要素を構成するから、評価根拠事実である。
2 立退料は権利抗弁ではない。
(1)例えば、同時履行の抗弁権は、被告が権利主張しないのに、これを認定すれば、弁論主義違反となる。
(2)これに対して、立退料は、原告側の正当事由の一要素であるから、原告が申し出る必要がある。
3 立退料の増額する判決の性質
(1)本件訴訟の訴訟物は、 賃貸借契約終了にもとづく建物明渡請求権であり、 準備書面での立退料の申し出を含めると、300万円の立退料の支払いと引き換えで 建物を明け渡せ、というのが原告の意思である。
(2)これに対して、立退料を増額することは、原告の負担を増やす上で、原告の請求の趣旨記載の申立てを質的に縮小させる、一部認容判決である。
4 立退料の増額と処分権主義
(1)原告が300万円の立退料を提案しているのに、裁判所が500万円の立退料を認定することは処分権主義に反しないか問題となる。
(2)例えば、原告が立退料の支払いを拒否し、無条件明け渡しを請求している場合に、立退料を認定することは処分権主義に反する。
(3)原告が明示したわけではないが、裁判所は、「原審の確定した諸般の事情の下においては、XがYに対して立退料 として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し、かつその支払つその支払と引換えに本件店舗の明渡しを求めている」と原告の意思を認定した。
ここは、裁判所が、立退料の支払いをする趣旨とはそういうものだと認定したことを意味する。
(4)以上より、裁判所が500万円の立退料を認定することは、原告の合理的意思に合致し、かつ、被告も予想した範囲であるとして、処分権主義に反しない、と判断したものである。
参考
越山和広「ロジカル演習 民事訴訟法」 119頁以下
田中豊「論点精解民事訴訟法 要件事実で学ぶ基本原理」105頁以下