ご質問・ご相談などお気軽にお問い合わせください。

TEL 06-6773-9114

FAX 06-6773-9115

受付時間 : 平日10:00 ~18:00 土日祝除く

メールでの
お問い合わせ

民事訴訟

【重要判例】判例(明示的一部請求)

2025/04/11 更新

一部請求

(1)1個の債権の一部請求には、数量的一部請求と特定一部請求がある。

(2)前訴と後訴の訴訟物が同一で、前訴が確定している場合には、前訴は一部請求となり、後訴は残部請求となる。
(3)黙示請求は、「一部請求である。後日、残部を請求する可能性がある。」と明示しない一部請求である。

 前の訴訟が黙示的一部請求債権である場合、その確定後に、債権の残部について後訴を提起することは許されない

(4)これに対して、前訴の一部請求が明示的一部請求であれば、その一部請求のみが訴訟物となる (最判昭和34年2月20日民集13巻2号209条)。前訴での一部請求の判決が確定しても、残部について後訴を提起することができる。

(5)したがって、「一部請求である。」ことが明示されていたかが、問題となる。

 なお、本判決において「一部請求であるとの明示がある。」と判断されたが、事例判決であり、未だに一般的な基準は明確になっていない。

平成20年7月10日判時2020号71頁

1 事案

(1)Xは、Yの債権仮差押が違法であり、損害を被ったとして、弁護士費用の請求を求めた判決が確定した。

(2))Xは、Yの債権仮差押が違法であり、債権仮差押の対象となっていた債権を受け取れなかったとして、その損害について、支払えと後訴を行った。

2 判決の内容

「X が本件訴訟で行使している賠償請求権と X が前事件反訴で行使した賠償請求権とは、いずれも本件仮差押命令の申立てが違法であることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権という1個の債権の一部を構成するものというべきであることは、 原審の判示するとおりである。」
 「しかし、 Xは、 前事件反訴において、上記不法行為に基づく損害賠償として弁護士費用損害という費目を特定の上請求していたものであるところ、①記録 (前事件の第1審判決) によれば、Xは、このほかに、 Yが、本件仮差押執行をすれば、 Xにおいて長期間にわたって本件樹木を処分することができず、その間本件買収金を受け取れなくなるし、 場合によっては本件土地が買収予定地からはずされる可能性もあることを認識しながら、本件仮差押命令の申立てをしたもので、 本件仮差押命令の申立ては、 X による本件土地の利用と本件買収金の受領を妨害する不法行為であると主張していたことが明らかである。 すなわち、 Xは、 前事件反訴において、 違法な本件仮差押命令の申立てによって弁護士費用損害のほかに本件買収金の受領が妨害されることによる損害が発生していることをも主張していたものということができる。 ②そして、 本件 弁護士費用損害と本件遅延損害金とは、実質的な発生事由を異にする別種の損害というべきものである上、③前記事実関係によれば、前事件の係属中は本件仮差押命令およびこれに基づく本件仮差押執行が維持されていて、本件仮差押命令の申立ての違法性の有無が争われていた前事件それ自体の帰趨のみならず、 本件遅延損害金の額もいまだ確定していな かったことが明らかであるから、 X が、前事件反訴において、 本件遅 延損害金の賠償を併せて請求することは期待し難いものであったというべきである。 ④さらに、前事件反訴が提起された時点において、Yが Xには本件弁護士費用損害以外に本件遅延損害金が発生していること、その損害は本件仮差押執行が継続することによって拡大する可能性があることを認識していたことも、 前記事実関係に照らして明らかである。」
 「以上によれば、 前事件反訴においては、本件仮差押命令の申立ての違法を理由とする損害賠償請求権の一部である本件弁護士費用損害につい ての賠償請求権についてのみ判決を求める旨が明示されていたものと解すべきであり、本件遅延損害金について賠償を請求する本件訴訟には前事件の確定判決の既判力は及ばないものというべきである。」

解説

特定一部請求

(1)一部請求には、数量的一部請求と特定一部請求がある。
(2)本件は、特定一部請求である。
 特定一部請求とは、前訴では交通事故の物損を、後訴では人損だけを請求するような場合の前訴の請求である。両訴訟の訴訟物となる請求は、同じ損害賠償請求権であるが、請求項目が異なるために前訴は一部請求、後訴は、残部請求となる。
(3)判決は、前訴も、後訴も同じ、不法行為に基づく損害賠償請求権であることから、一部請求の問題だとした。

明示の基準

(1)判決が一部請求であることの明示を要求しているのは、複数回の応訴を強いられる被告の負担である。したがって、被告にとって残請求される可能性があるかを予見できたかどうかがポイントとなる。

 判決は、以下の事情から、一部請求だと明示されていると判断した。

(2)①原告が、(残請求を含む)他の費用が損害として発生していたと主張していた、②弁護士費用と遅延損害金が発生事由を異にすること、③残請求が日々発生するものあるから、前訴にて、原告が金額を確定して残請求をすることが難しかったこと、④被告においても、他の費用が発生し続けることを予見できたことを理由に、一部請求だと明示されていると判断した。

(2)特定一部請求である前訴では、特定の損害項目のみを請求するとは記載されていたが、残部請求を留保することを明記していなかった。特定一部請求では、前訴の訴状にて、他の請求項目を請求する可能性があると記載することは少ないと思われる。しかし、請求項目の発生時期が異なり後訴が紛争の蒸し返しになることが少ないケースでは、原告の後訴請求の必要性と、被告の重複応訴の負担のバランスを考慮して、一部請求の明示があるか、が評価される。

参考
 名津井吉裕ほか 「事例で考える民事訴訟法」219頁以下

参考
 田中富「論点精解 民事訴訟法〔改訂増補版〕」299頁以下

「民事訴訟」トップに戻る

Contact.お問い合わせ

    ※個人情報の取り扱いについては、プライバシーポリシーをご覧ください。