運行管理責任
2023/08/26
自賠責法3条に基づく請求
(1)交通事故の場合、車を運転していた者だけでなく、運行供用者にも請求ができます(自賠責法3条)。
(2)車を運転していた者や、同人を雇用する会社が任意保険に加入している場合には、同人らを被告として訴えることができれば任意保の保険金により回収ができます。しかがって、任意保険による保険が下りるケースでは、自賠責法3条に基づく請求をしないのが実務的です。
(3)逆に、被告が任意保険に加入していないケースでは、回収可能性を高めるために、車を運転していた者や、同人を雇用する会社だけでなく、運行供用者も被告として訴訟することになります。
自賠責法3条に基づく請求の特徴
(1)自賠責法3条に基づく請求は、人損に限られます。物損は請求できない(自賠責法3条)。
(2)自賠責法3条に基づいて責任を負うのは、運行供用者となります。
自賠責法3条に基づく請求と要件
(1)自賠責法3条に基づいて請求は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したとき」に責任を負うとされていいます。
(2)問題となる要件としては、①運行供用者性、②運行性、③運行起因性、④他人性、⑤免責性があります。
(3)そのうち、運行供用者について以下確認します。
運行供用者性
(1)運行供用者性の責任の根拠は、①運行支配(自動車の運転という危険を管理している者が責任を負うべきであること)と、②運行利益(自動車の運転という利益を得ている者が、責任というマイナスも負担すべきであること)であります。
(2)判例は、かつては、①運行支配を中心にして、運行供用者の責任を負うかどうかを判断してきました。
しかし、現在では、③監督責任(具体的な事情を踏まえて、自動車の運行を適切に管理すべきであったといえるか)を中心に判断するようになってきた、いわれています。
(3)かつての①運行支配の観点では、運行供与者責任が否定されるケースでも、③監督責任が認められるようなケースでは、抽象的な①運行支配、②運行利益を認めて運行供与者責任を認めるようになったといわれています。
レンタカー業者
レンタカー業者は、運行供用者責任が一般的に認められます。しかし、利用者が期限を大幅に過ぎて自動車を返還せず、レンタカー業者の支配管理可能性が失われと認められる場合には、運行供用者責任が否定されることがあります。
リース会社
リース会社も同じく、運行供用者責任が一般的に認められます。
使用貸借による借主
(1)使用貸借による借主も同じく、運行供用者責任が一般的に認められます。
(2)友人夫婦がドライブをするのに自動車を貸したところ、友人夫婦の被用者が事故を起こした場合に、運行供用者責任を認められています(最判昭和48年1月30日)。
(3)暴走族の友人に車を貸したが、友人が返してくれず、返還を求めたが、返してもくれずに1か月余後に事故を起こしたケースでは、運行供用者責任が否定されています(最判平成9年11月27日)。
登録名義人
(1)登録名義人は、運行供用者責任が一般的に認められます。仮に、自動車の利用者と、自動車登録名義人が異なるとしても、自動車名義人において、自動車の利用者が自動車を利用することを可能にしていますので、運行供用者責任を認めるべきであるからです。
(2)自動車運送業の免許を受けていない者に、自社の荷物を運ばせる業務を行わせ、その車両の登録名義人になっていたケースでは、運供用者責任が肯定されています(最判昭和44年9月18日)。
(3)車を保有していると、生活保護を受給できないことから、弟が車両の登録名人になっていたケースでは、運供用者責任が認められています(最判平成30年12月17日)。
泥棒運転
(1)第三者によって車が盗まれて、その車で事故が起きたケースでは、原則として自動車を盗まれた者の責任は否定されます。
(2)しかし、盗難から2時間後に事故がおき、キーを刺しっぱなしにしているなど保管状況に問題があるケースでは、運供用者責任が肯定されています(最判昭和48年12月20日)。
従業員が自己所有所の自動車で仕事中あるいは通勤中に事故したケース
(1)従業員が自己所有所の自動車で仕事中あるいは通勤中に事故したケースでは、使用者(会社)が従業員の運転を支配していたかで決まります。
なお、被害者としては、民法715の使用者責任を問えるケースであるが、どちらを選んでも、同様の枠組みで判断されます。
(2)会社が、従業員が自己所有の自動車を仕事に使う場合に手当等を支給しており、会社の指示で現場に向かっていた事案では、運供用者責任が肯定されています(最判昭和52年12月22日)。
(3)従業員が自己所有の自動車を仕事に使っており、会社が、会社の駐車場を使用することを認めていたケースでは運供用者責任が肯定されています(最判昭和52年12月22日)。
(4)会社が、自己所有の自動車を仕事に使うことを禁止しており、これを使うには上司の許可が必要であるが、その許可を得ていなかった事案では、使用者責任が否定されています(運行供用者の責任は問題となっていないが、仮に、運行供用者の責任が問題となったとしても、運供用者責任が否定されるケースです)(最判昭和52年9月22日)。
従業員が会社所有所の自動車で仕事中あるいは通勤中に事故したケース
(1)仕事中に、従業員が会社所有所の自動車で事故を起こしたケースや、会社が、会社所有の自動車の利用を認めていた場合には、運供用者責任が認められます。
(2)しかし、従業員が会社に無断で、会社所有所の自動車を持ち出して事故を起こしたケースではどうなるのか。
(3)会社のカギの管理がずさんであったケースでは、使用者責任も運供用者責任が認められたケースがあります(最判昭和39年2月11日)。
(4)会社が、会社の車を私用に使うことを厳重に禁止しているが、同乗者が禁止されていることを知りながら、従業員に運転させて、事故に合った。同乗者の相続人が運行管理責任を請求したケースでは、運供用者責任が否定されています(最判昭和49年12月6日)。
参考
大島眞一「交通事故事件の実務-裁判官の視点」12頁以下
自由と正義2023年8月号28頁
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