判決(別件の裁判の判決が出る前の時点において、その判決の事実認定と矛盾する事実についての発言であったとしても、その発言内容が真実だと信じる相当性があるのであれば、その他の真実相当性の要件を満たせば免責される。しかし、別件の裁判の判決が出た後、同趣旨のYの発言については、それが真実だと信じる積極的な理由等がない限り、真実相当性の要件を満たさず免責されない。)
2026/05/01 更新
このページを印刷東京地裁令和7年1月31日
1 事案
(1)Xは、(宗教法人からの)脱退を支援する会に対し、約12年間、行動の自由を奪われたと主張し、平成26年11月13日、東京高裁は、この主張を認める判決を下した。・・・・①の判決
(2)YはXに対し、以下の発言等を行った。
ネット新聞にて、Xはニート化して引きこもっただけである、と発言した。・・・②の発言
ネット新聞において、Xは引きこもりの結果裁判で2000万円をゲットした、と発言した。・・・・③の発言
②の発言は①の判決前、③の発言は①の判決後であった。
(3)②の発言について、Yは①の訴訟の尋問を傍聴しており、Xの記憶が曖昧であったり不正確だと感じる部分があった。
2 判決
(1)②の発言は、Xが自主的に自宅に引きこもりをしたという意味を持ち、Xが脱会説得に応じず、宗教法人から英雄扱いされていたこと等の事実の評論とはいえない。
(2)一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、②の発言は、Xが自主的に自宅に引きこもりをしたという印象を与えるので、Xの社会的評価を下げる。
(3)②の発言について、Yは①の訴訟の尋問を傍聴しており、Xの記憶が曖昧であったり不正確だと感じる部分があった。
したがって、②の発言については、真実性の抗弁は成立しないが、Xが自主的に自宅に引きこもりをしたと信じたことについて相当の理由があり、真実性相当性の抗弁が成立する。
(4)これに対して、③の発言は①の判決後であった。
③の発言は、①の判決と矛盾しており、③の発言を真実であると信じたことについて、真実性の抗弁も、真実相当性の抗弁も成立しない。
東京地裁令和7年1月31日
判例タイムズ1542号194頁以下
解説
1 真実性の抗弁と、真実相当性の抗弁
(1)ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的がら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱し
たものでない限り、名誉棄損としての民事上及び刑事上の責任を負わない(真実性の抗弁)。
(2)仮に上記の証明がない場合でも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意又は過失は否定され名誉棄損としての民事上及び刑事上の責任を負わない(相当性の抗弁)(最判平元年12月21日民集43卷12号2252頁、最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁)。
2 事実についての意見ないし評論
ある事実の表現が名誉毀損にあたるかについて、(公共の利害に関する事実について、表現の目的が公益を図るものであり、重要な部分が真実であることの立証がある場合)真実性の抗弁が成立する場合、その事実についての意見ないし評論である場合には、その意見ないし評論については、名誉毀損は成立しない、とされる。
3 判決の内容
(1)本判決は、「Yの発言がXの社会的評価を下げるものであり、かつ、別件の裁判の判決が出る前の時点において、その判決の事実認定と矛盾する事実についての発言であったとしても、Yが別件の裁判でのXの尋問を聞くなどして、Yの発言内容が真実だと信じる相当性があるのであれば、その他の真実相当性の要件を満たせば免責される。」「しかし、別件の裁判の判決が出た後、同趣旨のYの発言については、別件の判決の事実認定と矛盾する事実についてそれが真実だと信じる積極的な理由等がない限り、真実相当性の要件を満たさず免責されない。」と判断しました。
(2)真実性(真実相当性)の抗弁と、別件訴訟の事実認定の関係について一つの判断として参考になる判例です。






