判例(記者会見で、一方的な見解で発言すれば、不法行為責任を負うことがある、とされた。)
2025/05/30 更新
このページを印刷東京高判令和5年11月30日
1 事案
(1)ある学校法人において、理事の解任決議とその取り扱いに関する問題が発生した。
第三者委員会が当該決議について調査を行った。
(2)その理事は、第三者委員会を被告として損害賠償訴訟を提起し、記者会見でその内容を説明した。
2 判決
(1)原告が、第三者委員会の判断が不公正であると争ったこと、つまり、その判断が誤っていると争ったことについては、不法行為は成立しない。
(2)しかし、記者会見で、第三者委員会の判断が不公正であると説明したことは、第三者委員会の名誉を損害したものであり慰謝料が発生するとされた。
東京高判令和5年11月30日
判例タイムズ1531号118頁
解説
1 訴えの提起とその違法
(1)原告の請求が正当かどうかは、訴訟提起後に、裁判所が判断することです。原告の請求が認められなかったからといって、原告の請求を全て違法だということはできません。
したがって、「原告の訴訟提起そのものが違法である。したがって、訴訟提起したことが不法行為の違法であるとして損害賠償義務を負う」と認定される場合は、訴訟提起そのものが著しく相当性を欠く場合に限られます。
(3)この点について、最高裁判例 (最三小判 昭63.1.26民集42巻1号1頁) は、「訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。」と判断しています。
2 記者会見
(1)これに対して、記者会見で訴訟の中身を説明しただけであっても、報道の自由と同じく、第三者委員会の判断が不公正であると説明するのであれば、重要な事実について真実であると認めらる、もしくは、その事実を真実と信ずるについて相当の理由があるとも認められない上、違法となって、不法行為責任を認られます(慰謝料の請求が認められる)。
(2)訴訟提起と、記者会見では別の配慮が必要なるとした判例です。