テナントの原状回復と、賃借人の主張
2023/02/01
原状回復
(1)テナントの明渡をする際に、賃貸人から過剰が修繕費を請求されることがあります。
(2)賃借人の立場で、主張すべき事項を確認しましょう。
「テナントには、平成17年判決は適用されない。」という賃貸人の主張と、賃借人の反論
(1)賃借人が、「テナントの賃貸借契約には、平成17年判決が適用されない。」と主張してくることがあります。
(2)最判平成17年12月16日(集民第218号1239頁)は、特別の合意がある場合を除いて、賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人は原状回復の費用負担を負わない、とした判例です。
(3)テナントにも平成17年判決は適用されます。そして、「返還時は、天井、壁、床を新調する費用を賃借人が負担する。」という特別な合意がない限り、テナントの賃貸借契約でも、賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人は原状回復の費用負担を負いません。
「『原状回復は賃貸人が指定する業者が行う。』との合意があるので、賃借人はその費用が高いかどうか反論できない。」という賃貸人の主張と、賃借人の反論
「原状回復は賃貸人が指定する業者が行う。」との合意は有効です。しかし、その費用が適正額については争うことが当然できます。
「賃借人主張の工事金額に金額に合意する書面をせよ。同意しなければ賃借人の造作物が残ってしまうので、賃料相当損害金が発生する。」という賃貸人の主張と、賃借人の反論
(1)工事金額が決まらないと原状回復の工事がスタートできません。そこで、賃借人の造作物が残ってしまうという問題が生じます。この場合に備えて、「残した造作物の撤去は賃貸人に任せる。これを取り壊しても賃借人としては文句を言わないこと」を文書で通知します。また、カギを渡返して、建物の明渡しまでは終わらせます。
(2)ここまでやっても、「原状回復費用について争いがあるために造作物を撤去できなかった。したがって、賃借人に責任はない。」と判断するかは裁判所しだいです。
(3)確かに、原状回復費用について争いがある場合には、原状回復の工事をしていなくても明渡があったといえるとする判例もあります。しかし、私見としては、裁判所が、2か月分程度の賃料の追加請求を認める可能性があると考えます。
「通常損耗を考慮すれば、費用負担を負わない。」という賃借人の主張
(1)賃借人が長年物件を利用していた場合には、経年劣化を考慮しなければなりません。
(2)賃借人が天井に穴を空けなくても、10年の年月が経てば、天井が経年劣化し取り換える必要があるだろうと考えるべき場合には、天井、壁、床の新設費用を負担する必要はない、と主張しましょう。
「前賃借人が設置したものであるから、原状回復義務を負わない。」という賃借人の主張
(1)賃借前から存在したものは、撤去義務や修繕義務を負わない、と主張しましょう。
(2)例、前賃借人が置いて行った看板、前賃借人が空けた穴がその例です。
「前賃借人が設置したものを、賃借人が交換したものであるから、原状回復義務を負わない。」という賃借人の主張
(1) 例えば、前賃借人が設置したドアを取り壊して、賃借人がドアを新設した場合に、賃貸人としては、前のドアと今のドアでは経済価値が変わらないときには、賃借人はドアを新調する費用の負担を負いません。
(2) 例えば、前賃借人がA社という看板を設置していたままであった。B社は新しく賃貸人し、看板を塗り直してB社という看板を設置した場合、賃貸人からすれば、前のA社の看板がある状態のB社の看板がある状態では経済価値が変わらないときには、賃借人は看板の塗り直し義務を負いません。
(3)例えば、前賃借人が天井に穴を2つ開けたとします。その後に、賃借人が天井に穴を空けて電気設備を追加したとします。賃貸人からすれば、天井の穴が二つから三つつに増えたとしても、経済価値が変わらないときには、賃借人は看板の塗り直し義務を負いません。
(3)もちろん、前賃借人の原状回復義務を引き継いでスケルトン状態に戻す旨の合意がある場合には、賃借人がこれらの撤去義務を負います。
前賃借人の造作物を賃借人が取り壊して新しい造作物を設置した場合
(1)賃貸人が、「前の状態に戻せ。新築する場合の費用を負担せよ。」と主張する場合があります。
(2)この場合に、飲食店の仕様であった場合(賃貸人がこの状態のまま、別の賃借人に賃貸することが予想される場合)、賃借人が古いものを新しく取り換えても、賃貸人にとって前の造作と今ある造作の経済価値が変わらないときには、特別物を壊したりしていなければ、賃借人は原状回復義務を負いません。
(3)特殊な業種の仕様であった場合(賃貸人がこの状態のまま、別の賃借人に賃貸することが予想される場合)、スケルトン状態に撤去するのが通常ですから、スケルトンを基準に賃借人の原状回復義務が決まります。つまり、賃貸物件に設置された造作等の撤去費用を負担する義務を負います。
借りたときの状態が不明な場合
(1) 借りたときの状態を記録した書類がない。オーナーチェンジで当時の資料が存在しない場合があります。
(2) 増改築の場合には、賃貸人に改築の計画を提出する必要があります。前賃借人時代の工事図面と、現在の仕切り等の位置関係で、比べると居抜きであったかどうか分かることがあります。居抜状態であった場合、内装を手直しした場合には、前の仕切り等をそのまま利用することが多いからです。
(3) また、賃借人が内装工事をしたときの工事の見積もりの金額等で推察が付くこともあります。
(4) このような場合には、前の賃借人にも依頼したり、訴訟であれば、双方が相手方に文書提出命令をすることになります。
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