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残業代の計算

判例(給与は歩合給で計算されていたが、就業規則では固定給となっていたとき)

2023/04/06 更新

問題

(1)会社は歩合給で給料を支払っていた。しかし、就業規則は固定給であった。

(2)(正確な表現ではないが)歩合給の法定割増賃金率は0.25です、就業規則の固定給の法定割増賃金率は1.25です。単純に考えると就業規則の方が有利です。 従業員に周知された就業規則の方が、実際の労働条件がより有利な場合には、就業規則の基準が労働条件となってします(最低基準効)。
(3)そうだとすれば、同会社の残業代の計算については、固定給としての残業代を計算すべきと考えることになるのでしょうか。

実体と違う就業規則

(1)就業規則を作った。その後、会社の給与体形が変更になったが、就業規則を変更していなかった、という事例はよくあります。

(2)従業員に周知された就業規則の方が、実際の労働条件がより有利な場合には、就業規則の基準が労働条件となってします(最低基準効)(労働基準法93条、労働契約法12条)。

福岡地裁平成30年9月14日 判例タイムズ1461号

(1)本判決は、以下のように判断しました。

(2)会社は歩合給で給料を支払っていた。しかし、就業規則は固定給と定めがあった。

(3)就業規則には「全ての従業員に適用する。」と規定されているので、当該従業員にも就業規則が適用される。

(4)会社の主張によっても、実体の給与体形(歩合給)と、就業規則の固定給を比べても、実体の給与体形(歩合給)が有利とはいえない。歩合給の法定割増賃金率は0.25である、就業規則の固定給の法定割増賃金率は1.25である。そうだとすれば就業規則の方が有利である。

(5)同会社の残業代の計算については、固定給としての残業代を計算すべきである。と判断した。

福岡地裁平成30年9月14日 
判例タイムズ1461号

解説

(1)判例タイムズ1461号では、「会社は歩合給で給料を支払っていた。しかし、就業規則は固定給であった、という事案についても、就業規則の適用があることを判示した判例である。」と解説がされています。

(2)例えば、就業規則が正社員に適用されるという規定がされており、(原告となった)社員が非正規社員であるというような場合には、就業規則の適用はありません。

(3)従業員に周知された就業規則の方が、実際の労働条件がより有利な場合には、就業規則の基準が労働条件となってします(最低基準効)(労働基準法93条、労働契約法12条)。
 例えば、固定給から歩合給に変更され、歩合給時代の方が総人件費が増えているような事案では、就業規則の適用はなかったかもしれません。
 例えば、実体が「固定給にプラスしてA手当(歩合給)を支払っている。」で、就業規則にA手当(歩合給)の記載がないようなケースでは、実体の方が就業規則より有利になるから、就業規則の適用はないものと思われます。

(4)就業規則の最低基準効が認められるためには、就業規則が労働者に周知されていること(労働条件の定めとして就業規則が存在することについて従業員が広くしっており、従業員がこれを見ようと思えばみれたこと)ことが必要です。したがって、就業規則が周知されていないケースでも就業規則の適用はありません。

(5)私見としては、歩合給と固定給は別の制度であり、どちらが有利かについて比べられるものではありません。したがって、「会社は歩合給で給料を支払っていた。しかし、就業規則は固定給であった。」という事案についても、就業規則の適用があるという結論に違和感を感じます。私見としては、同判例の結論については、別の裁判所が判断がすれば結論が分かることもあるのではないか、と考えています。

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