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民事訴訟

Q 別訴で請求している債権について、これを自働債権として相殺の抗弁を主張することは、二重起訴の禁止に反するか。

2026/04/12 更新

別訴で請求している債権について、これを自働債権として相殺の抗弁を主張すること

(1)例えば、相殺の抗弁を主張しているところ、その自走債権について、同じ訴訟の反訴で請求することは、同一裁判所で審理されるために、二つの訴訟物の判断が矛盾することが有りず、二重起訴の禁止に反しない(民事訴訟法142条)。

(2)相殺の抗弁についても既判力が生じる(民事訴訟法114条2項)。別訴で請求している債権について、これを自働債権として相殺の抗弁を主張すれば、別々の訴訟で同じ債権について審理され、それぞの判決が出てその判決の既判力の衝突が生じうるがため、二重起訴の禁止に反しないか問題となる(民事訴訟法142条)。

民事訴訟法114条 (既判力の範囲)
1項 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2項 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。

参考
 名津井吉裕ほか「事例で考える民事訴訟法 」70頁以下

相殺の抗弁と判例と学説

別訴訟先行型

最判平成3年12月17日民集45巻9号1435頁

 別訴訟で請求している請求について、相殺の抗弁として主張することは許されない。

同判例は、両手続きが併合されても、相殺の抗弁として主張することは許されないとしている。しかし、学説上は、同一裁判所で審理されるために、二つの訴訟物の判断が矛盾することが有りえないので、併合された場合まで禁止することについては批判が多い。

参考
 名津井吉裕ほか「事例で考える民事訴訟法 」70頁 
 勅使川原和彦「読解 民事訴訟法」 118頁以下

抗弁先行型

(1)抗弁先行型の最高裁判例はない。抗弁先行型は認められる、という結論を出す可能性は否定できない。
(2)以下を理由に、抗弁先行型について、後訴訟で訴え提起することができる、という考え方も有力である。

(1)前訴での相殺の抗弁の主張は応訴の手段として提出したものであること(自己責任)。
(2)抗弁で主張しただけでは、同請求権が審理の対象となるわけではない。この場合には、相手方の請求権が存在しないことが確定してやっと、同請求権を行使できることになる。したがって、別訴訟で同債権を行使する必要性があること(請求権の権利行使)

参考
 名津井吉裕ほか「事例で考える民事訴訟法 」292頁

相殺の主張は禁止されないとする学説
 学説上は、以下の理由から、相殺の主張は、二重起訴の禁止(民事訴訟法142条)に反しない、という考え方も有力である。根拠は以下のとおりである。

(1)実体法上、相殺は、相対する債権を消滅させて迅速かつ確実な決済を完了させる機能を有する。できる限り、訴訟上の都合で制限すべではない。
(2)相殺の抗弁は、原告の請求の存在を認め、かつ、自働債権が消滅するという意味で実質敗訴する。他の抗弁が認めならない場合に、予備的に審理を求める抗弁である。したがって、既判力が生じるかは不確定である。
(3)二重起訴が問題となるのは、別訴訟も当事者が同一となる事案であるから、既判力の抵触の可能性について見逃される可能性は少なく、裁判所は、事件の移送、弁論の併合(152条1項)、訴訟の事実上の中止など、多様かつ柔軟な対応が可能であるから、二重起訴を一律に禁止する必要はない。

明示的一部請求と、相殺の主張

 明示的一部請求の訴訟中に、その債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を提出することは、特段の事情がない限り許される (最判平成10年6月30日民集52巻4号1225頁)。

(1)この判決については、最判平成3年12月17日民集45巻9号1435頁(別訴訟で請求している請求について、相殺の抗弁として主張することは許されない、とする判例。)と矛盾する、という批判もある。
 これに対しては、以下のような反論が考えられる。
(2)確かに、前訴訟が確定した後に、後訴訟が提起された場合、前訴訟の結果を踏まえて、後訴訟について進行を考える必要がある。後訴訟が提起された初期の段階で、訴訟物が同一ではなくても、信義則を理由に、前訴訟の判断と後訴訟が同一かどうかを判断すべきである。
(3)これに対して、二重起訴を理由に別訴訟の提起を禁止するということは、「前訴訟が確定するまで、後訴訟を提起できない。前訴訟の確定後に後訴訟を提起する。」という結論となる。しかし、個別具体的な事情によっては、「前訴訟が先に審理することが適切で、前訴訟を確定後に後訴訟を提起するのが適切である。」とはいえない。
(4)二重起訴(142条)の場合には、既判力が抵触しない両事件については、別訴訟も当事者が同一となる事案であるから、既判力の抵触の可能性について見逃される可能性は少ない。
 むしろ、両訴訟を併存させた上で、裁判官が個別具体的な事情を考慮し、事件の移送、弁論の併合(152条1項)、訴訟の事実上の中止など、多様かつ柔軟な対応をすることを認めたほうが妥当な解決を図ることができる。
(5)この点、明示的一部請求については、その一部請求のみが訴訟物となる (最判昭和34年2月20日民集13巻2号209条)。したがって、別訴訟での相殺の主張についての判断との関係で既判力は衝突しない。
(4)したがって、事件の移送、弁論の併合(152条1項)、訴訟の事実上の中止など、多様かつ柔軟な対応にて、対応すべきという結論になったと考えられる。

参考
 長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法  第3版 」71頁、72頁
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