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民事訴訟

Q 別訴で請求している債権について、これを自働債権として相殺の抗弁を主張することは、二重起訴の禁止に反するか。

2026/08/16 更新

別訴で請求している債権について、これを自働債権として相殺の抗弁を主張すること

(1)相殺の抗弁は、訴え提起ではない。
(2)しかし、相殺の抗弁についても既判力が生じる(民事訴訟法114条2項)。別訴で請求している債権について、これを自働債権として相殺の抗弁を主張すれば、別々の訴訟で同じ債権について審理され、それぞれの判決が出てその判決の既判力の衝突が生じうるがため、二重起訴の禁止に反する(民事訴訟法142条)。

民事訴訟法114条 (既判力の範囲)
1項 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2項 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。

参考
 名津井吉裕ほか「事例で考える民事訴訟法 」70頁以下

相殺の抗弁と判例と学説

別訴訟先行型

最判平成3年12月17日民集45巻9号1435頁

 別訴訟で請求している請求について、相殺の抗弁として主張することは許されない。

 同判例は、両手続きが併合されても、相殺の抗弁として主張することは許されないとしている。確かに、併合されて、同一裁判所で審理されれば、二つの訴訟物の判断が矛盾することは有りえない。しかし、弁論が分離する権限(民事訴訟法152条1項)があるから、併合された場合でも禁止される。

参考
 民事訴訟法判例百選(第6版)74頁。

抗弁先行型

(1)抗弁先行型の最高裁判例はない。抗弁先行型は認められる、という結論を出す可能性は否定できない。
(2)以下を理由に、抗弁先行型について、後訴訟で訴え提起することができる、という考え方も有力である。

(1)前訴での相殺の抗弁の主張は応訴の手段として提出したものであること(自己責任)。
(2)抗弁で主張しただけでは、同請求権が審理の対象となるわけではない。この場合には、相手方の請求権が存在しないことが確定してやっと、同請求権を行使できることになる。したがって、別訴訟で同債権を行使する必要性があること(請求権の権利行使)

参考
 名津井吉裕ほか「事例で考える民事訴訟法 」292頁

反訴訟の請求について、本訴の請求債権について、これを自働債権として相殺の抗弁を主張すること

(1)反訴の場合は同一裁判所で審理されるから、二つの訴訟物の判断が矛盾することは有りえない。しかし、弁論が分離される可能性(民事訴訟法152条1項)があるから、反訴の場合でも二重起訴にあたり原則禁止される。
(2)しかし、最判令和2年9月11日民集74巻6号1693頁は、本訴たる請負代金債権と、反訴たる瑕疵修補に代わる損害賠償請求について、同一の原因関係に基づく金銭債権である。相殺の担保的機能(相殺が認められてお金が支払ってもらったの同じ効果がある)ことを考えられれば、反訴たる瑕疵修補に代わる損害賠償請求について、本訴たる請負代金債権を自働債権とする相殺の主張をすることを認めた。
(3)同判例は、「反訴訟の請求について、本訴の請求債権について、これを自働債権として相殺の抗弁を主張することは二重起訴の禁止(民法142)として違法となる」ことが原則であることを前提としつつ、「反訴たる瑕疵修補に代わる損害賠償請求と、本訴たる請負代金債権」の等価性(一体性)を理由に相殺の主張を認めた。
 判例は、反訴であることにより同一審判で矛盾が回避されることと、必要性を考慮する立場といえる。

参考
 民事訴訟法判例百選(第6版)74頁。

明示的一部請求と、相殺の主張

 明示的一部請求の訴訟中に、その債権の残部を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を提出することは、特段の事情がない限り許される (最判平成10年6月30日民集52巻4号1225頁)。

(1)最判平成3年12月17日民集45巻9号1435頁は、別訴訟で請求している請求について、相殺の抗弁として主張することは許されない、とするから、同判例と矛盾するだろうか。
(2)二重起訴(142条)が禁止されるのは、両請求について既判力が抵触する可能性があるからである。
(3)この点、明示的一部請求については、その一部請求のみが訴訟物となる (最判昭和34年2月20日民集13巻2号209条)。したがって、別訴訟での相殺の主張についての判断との関係で既判力は衝突しないから許される、という説明することになろう。

参考
 長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法  第3版 補訂版」73頁、72頁

相殺の主張は禁止されないとする学説

 学説上は、以下の理由から、相殺の主張は、二重起訴の禁止(民事訴訟法142条)に反しない、という考え方も有力である。根拠は以下のとおりである。

(1)実体法上、相殺は、相対する債権を消滅させて迅速かつ確実な決済を完了させる機能を有する。できる限り、訴訟上の都合で制限すべではない。
(2)相殺の抗弁は、原告の請求の存在を認め、かつ、自働債権が消滅するという意味で実質敗訴する。他の抗弁が認めならない場合に、予備的に審理を求める抗弁である。したがって、既判力が生じるかは不確定である。
(3)二重起訴が問題となるのは、別訴訟も当事者が同一となる事案であるから、既判力の抵触の可能性について見逃される可能性は少なく、裁判所は、事件の移送、弁論の併合(152条1項)、訴訟の事実上の中止など、多様かつ柔軟な対応が可能であるから、二重起訴を一律に禁止する必要はない。

参考
 長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法  第3版 補訂版」66頁以下

弁護士 井上正人
 この記事の著者・監修 弁護士 井上 正人(いのうえ まさと) 大阪弁護士会所属(登録番号:43449) /
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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