Q 裁判所が釈明権を行使しないことが違法になるのはどんなときですか。
2026/08/12 更新
| 釈明権についての私見 1 釈明権の本質 (1)釈明権は、訴訟手続を円滑に進めるために、裁判官は、当事者に対し質問したり、特定の事項を主張、立証したりするように促す裁判所の権限である。 (2)処分権主義、弁論主義を徹底すれば、当事者が主張、立証しないために、「勝つべき者が負ける。」ということが発生する。しかし、裁判所には司法権として、事実を解明しその真実に適合した判決をする責任があり、その責任を果たすために、釈明権が認められている。 (3)積極的釈明権については、処分権主義、弁論主義に反するという考え方もある。処分権主義、弁論主義の根底には自己責任がある。しかし、当事者が主張、立証しないために、「勝つべき者が負ける。」ということが発生するのは、手持ち情報が不足することが原因であり、自己責任の根拠を欠く。裁判所には釈明権を行使して裁判所の手持ち情報を伝え、事実を解明しその真実に適合した判決をする責任がある。 2 釈明権の要件 したがって、①裁判所が真実・妥当だと考える結論について、当事者が主張していないこと、②訴訟経緯を考えると、当事者が同主張をする機会を与えないことが公平でない場合には、裁判所は、裁判所が考える法律構成の主張をしないか、と問い合わせる釈明義務がある、と考えてよいだろう。 |
留置権、同時履行の抗弁権(権利抗弁)
(1)同時履行の抗弁を主張する(民法533条)には、同時履行の抗弁権を行使するという権利主張が必要である。
(3)留置権の抗弁を主張する(民法295条)には、①当該物によって生じた債権があること、②当該物を占有していること、③当該物が自分以外の所有物であること、④留置権を行為する、という権利主張が必要である。
(4)裁判所が権利抗弁を認定するには、当事者が権利行使を主張することが必要である。当事者がこれを主張していないのに裁判所がこれを認めることは弁論主義に反する。また、権利抗弁を主張するかは当事者の判断であるから、裁判所には、当事者に対し、権利抗弁を行使するかどうか確かめる義務はなく、これを確かめなかったとしても、釈明義務違反にもならない。
留置権については、上記について判例がある(最判昭和27年11月27日民集6巻10号1062頁)
参考
長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法 第3版」108頁
時効の援用
(1)時効制度については、時効の援用の意思表示が必要である。民法は、債権者と債務者の利害関係について、時効の援用を債務者の判断に委ね、また、権利の承認があった場合には債権者を保護するなど、当事者の責任に委ねている。
(2)時効の援用についても、当事者がこれを主張していないのに裁判所がこれを認めることは弁論主義に反する。また、権利抗弁を主張するかは当事者の判断であるから、裁判所には、当事者に対し、時効を援用するかどうか確かめる義務はなく、これを確かめなかったとしても、釈明義務違反にもならない(最判昭和31年12月28日民集10巻12号1639頁)。
参考
長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法 第3版 」108頁
公序良俗違反と信義則違反
(1)民法90条の「公序良俗違反」は法的評価である。これを基礎づける具体的事実が主要事実である(主要事実説)。
(2)公序良俗違反に違反する権利とは反社会的な権利主張である。当事者が主張しないからといって、このような権利行使を認めることはできない。したがって、当事者のどちらかが、具体的な事実を主張していれば、民法90条違反の主張がなくても、裁判所は民法90条違反を認定できる(最判昭和36年4月27日民集15巻4号901頁)。
(3)もっとも、当事者にとっては、公序良俗違反に違反するかどうか、を反論する機会を与えなければ不意打ちとなる。したがって、弁論主義違反とならないが、釈明義務違反となるという考えが有力である。
最判平成22年10月14日裁判集民235号1頁
具体的な事実を主張しているが、当事者の誰も、信義則違反になるとの主張をしていない場合、裁判所が信義則違反を認定することは弁論主義違反にはならいが、当事者に、「信義則違反にならない」という主張を反論の機会を与えなかったことが釈明義務違反となる。
| 信義則違反も、これを基礎づける具体的事実が主要事実である(主要事実説)。 |
参考
長谷部由起子ほか「基礎演習民事訴訟法 第3版 」109頁
高田裕成「民事訴訟法判例百選〔第6版〕」106頁




