ステークスホルダー資本主義
2024/09/16 更新
ステークスホルダー資本主義
(1)ステークホルダー資本主義は、企業のステークホルダー(利害関係者)の利益を考慮して、企業を経営すべきという考え方です。
(2)ステークホルダーには、株主、顧客、従業員、仕入先だけでなく、「環境」「人権」等の概念を含みます。
(3)ステークホルダー資本主義には、いろいろな考え方があります。これを分類した上で、どのような企業を目指すのか議論されるべきです。
株主第一主義
(1)排ガス規制等を違法にすり抜けて販売を拡大しても、いずれ発覚して企業価値を失います。したがって、ステークスホルダーの利益を守ることが、企業価値、ひいては株主の利益につながる、という考え方です。
(2)この意味でのステークホルダー資本主義を目指すことを明確にしておけば、経営者が判断に迷った場合に「(長期的な)株主の利益を目指すにはどうすればよいのか。」」という観点から意見をまとめることが可能です。
(3)この意味でのステークホルダー資本主義は、(株主価値の最大化を目指す)株主資本主義と違いはありません。「ステークホルダー資本主義を目指す。」と公約しながらも企業文化を一切変えないことになりかねません。
法令遵守の徹底
(1)企業経営をするうえで、「顧客に対する虚偽の広告をしてはならない。」「パワハラを許さない。」「下請いじめをしてはならない。」など、コンプライヤンスの遵守として理解する考え方です。
(2)この意味でのステークホルダー資本主義は、法令だけでなく、「環境」「人権」等の一定のガイドライン等の遵守も含ませることができます。
(3)この意味でのステークホルダー資本主義は、法律以外の利益をどのように守るのかが不明です。もしくは、この意味でのステークホルダー資本主義を目指すことを明確にしていても、取締役会等で意見が割れた場合に、「どのように判断を下すべきか指針にならない。という問題があります。
(4)この意味でのステークホルダー資本主義は、最低限のルールを守るということなので、他のどの考えとも併存することが可能です。
ウィンウィンの関係の構築
(1)企業経営をするうえで、「顧客に真実の情報を提供してファン化させる。」「従業員が働きやすい環境を作る。」「サプライチェーンとの共生を目指す。」など、ウィンウィンの関係を目指す考え方もあります。
(2)「ウィンウィンの関係を作れる。」という事例等が多数あり、これを積極的に取り入れていくことには意味があります。しかし、この意味でのステークホルダー資本主義を目指すことを明確にしていても、ステークホルダー間での利益対立がある場合には、どのように判断を下すべきか指針にならないという問題があります。
(3)この意味でのステークホルダー資本主義は、「ウィンウィンの関係を作れる。」という場面に限っては、他のどの考えとも併存することが可能です。
お金ではない価値基準を明確にする。
(1)企業経営をするうえで、「売上よりも◯◯を大切にする。」という売上等よりも優先すべき価値基準を明確にするべきという考え方もあります。
(2)この考え方は、(株主価値の最大化を目指す)株主資本主義と対立する可能性があります。
(3)逆に、企業経営は、(売上よりも大切にすべき)会社の価値観を明確にすることで差別化に繋げることも可能です。
企業の意思決定において選択と集中が必要です。「優先すべき価値観(パーパス)」を前提としつつも、会社での売上を確保する方法は必ずあります。
「優先すべき価値観(パーパス)」にしたがって一貫した事業活動をすることで、消費者からの信頼(ブランディング)を得ることも可能です。
(4)この意味でのステークホルダー資本主義については、どうやってこれを実現するのか、仮に、利害対立が生じた場合にどうやって対応するのか明確なルールが必要であり、これを欠く場合には大きな混乱を招くという、リスクがあります。
(5)例えば、取締役会において、従業員代表が選んだ従業員1名を参加させて、会社の意思決定に意見を反映させる等の方法があります。また、各専門分野の専門家を取締役に任命するのもその一つの方法です。
この手法の場合には、利害関係者が増えて意見集約が困難になるという問題があります。
(6)もう一つのアプローチとしては、企業ドメイン(企業が定めた自社の活動範囲)を制限することです。
「〇〇の分野は、儲かるかもしれないが、企業の価値観と合わないので手を出さない。」という判断です。
企業ドメイン(企業が定めた自社の活動範囲)を制限の場合には、◯◯事業を立て直すにはどうすべきか、という共通の議題で議論ができるために、取締役会での共通の立場での議論が可能となります。
参考
ハーバードビジネスレビュー2024年5月号106頁以下