副業と兼業
2024/10/06 更新
副業・兼業を後押しする風潮
政府は、働き方改革の一環として、柔軟な働き方を認める社会を目指し、副業を後押ししています。
政府は、定年後の生活保障等を考慮して、副業を後押ししています。
アンケートによれば、大企業の3割の社員は副業に興味があるそうです。
副業・兼業のメリット
(1)会社のメリット
政府は、企業側に対し、社員が副業で得た知識・知識を本業に活かせばイノベーションに繋がる等のメリットを説明しています。
しかし、現実論として、週に1日程度の副業を認めるだけでは、本業に活かせるだけの知識・経験を積むことは難しいでしょう。
(2)社員のメリット
スキルアップにつながる。収入が増えるのがメリットがあると言われています。
副業・兼業のデメリット
(1)健康被害
副業を認めると、本業と副業の労働時間をトータルで見ると、長時間労働になりがちです。健康管理上の問題が生じます。
(2)企業秘密の漏洩等
社員が本業の知識・ノウハウを使って副業をすれば、ノウハウの流出や、競業の問題(本業の会社が損をしえ、副業先の会社が利益を得ること)が生じます。
副業・兼業の禁止
(1)副業・兼業に関する裁判例では、勤務時間外の時間を社員がどう使うかは自由であり、原則として副業を認めています。
裁判例で、副業が禁止されるのは① 労務提供上の支障がある場合 ② 業務上の秘密が漏洩する場合 ③ 競業により自社の利益が害される場合 ④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する場合等の限られた場合に限られます。
(2)例えば、就業規則で副業・兼業を禁止しても、裁判では無効となる可能性が高いといえます。
無許可の副業・兼業が発覚しても、会社が社員を処罰することができるのは限られたケースになります。
就業規則の変更
(1)厚生労働省が作成しているモデル就業規則も、副業を原則として認める規定に変更されました。
政府としては、副業を推奨しています。しかし、就業規則にて副業を制限することは違法であるとは言われていません。
(2)会社の就業規則が副業を禁止していたとしても、就業規則を変更する必要性まではありません。しかし、副業を禁止する部分は無効になる可能性が高いことは理解しておいてください。
副業・兼業を認める場合の会社と社員の業務
(1) 副業・兼業についての報連相
副業を認めると、本業と副業で通算して計算した労働時間は長時間になりがちです。健康管理上の問題が生じます。
社員が本業の知識・ノウハウを使って副業をすれば、ノウハウの流出や、競業の問題(本業の会社が損をしえ、副業先の会社が利益を得ること)が生じます。
会社として副業を認めるにあたって、定期的に、副業での労働時間について報告してもらうことや、ノウハウの流出や、競業のリスクが生じうるケースでは報告してもらう必要があります。
会社と社員で、副業についての具体的な取り決めや、定期的な現状報告等が必要になります。
(2)労働時間の通算
社員が、副業先の会社と雇用契約を締結して社員として働き、管理監督者に当たらない場合には、労働時間を通算して残業代を計算する必要があります。
詳細については後述します。
(3)確定申告
社員は年末調整をしてるので、原則として確定申告が不要です。
しかし、副業で年20万円以上の収入を得ると、確定申告をする必要がでてきます。
(4)結論
以上、会社及び社員にとって副業を行う場合の事務的なコストが大きく、週1日の業務で月に10万円以上収入がアップするような副業でなければ、おすすめできないというのが本音です。
労働時間の通算・社会保険手続
1 通算の必要性があるケース
社員が、副業先の会社と雇用契約を締結して社員として働き、管理監督者に当たらない場合には、労働時間を通算して残業代を計算する必要があります。
本業と副業のどちらかが、雇用契約ではない場合、例えば、委託契約、経営者として起業する場合や、管理監督者に当たる場合には、通算する義務はありません。
なお、残業計算のための労働時間の通算は不要であっても、健康管理のための労働時間をトータルで把握して長時間残業になっていないかチエックすることは必要です。
2 原則的な計算方法
先に労働契約を締結した会社(本業A社)と、後に労働契約を締結した会社(副業B社)で労働時間を通算して計算します。
本業A社で8時間働き、その後、副業B社で4時間働いたとします。
1日の法定労働時間は8時間なので、本業A社では残業は発生しません。
副業B社では、4時間しか働いていませんが、全て時間外労働となり残業が発生します。
原則的な計算では、本業A社と副業B社が連絡を取り合って、当日何時間働いたかを確認して残業代を計算する必要があります。
3 管理モデル
管理モデルという、労働時間の管理方法も認められています。
例えば、本業A社での労働について「1日8時間労働、残業時間は月30時以内」と設定します。
副業B社では、本業A社と連絡を取らなくても、A社では上記設定内で社員が働いているものと計算して、副業B社で働いた時間を計算する方法です。
詳しくは、インターネットで、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」もしくは、「副業 管理モデル」等で検索して下さい。
4 社会保険
労働保険、社会保険についても、副業を認める場合には特別な対応が必要です。
詳しくは、インターネットで、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で調べて組み下さい。
5 副業・兼業の有無の調査義務
会社には、社員の副業を調査する義務がありません。社員のプライバシーもあり、社員が隠している場合に強引に聞き出してはなりません。
会社は、社員が副業について申告しなかった場合、会社は社員は副業していないものとして扱えば足ります。
例えば、本来であれば、副業先は本業先があることを知っていれば、本業先での労働時間を通算して残業代を計算する必要がありますが、ダブルワーク(副業先として勤務していること)を知らなければ、通算してざ行を支払う必要はありません。
厚生労働省のHP
厚生労働省のHPでは、副業・兼業についていろいろな情報が掲載されています。
以下のサイトをチェックして下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
正社員の副業は月に1,2回の突発的なものしか認められない。
(1)健康管理の問題
確かに、無許可の副業・兼業が発覚しても社員を処罰することができるのは限られたケースです。しかし、健康管理の関からは、会社が、フルタイムで働く正社員については、きわめて短時間の副業しか認めることができません。
1日8時間・週5日働く正社員は、既に、法定労働時間の週40時間働いています。その正社員に、週に1日8時間程度の副業を認めれば、月に32時間程度の時間外労働が増えてしまいます。
本業でも残業が発生するような職種では、週に1日程度の副業を認めることは健康管理上問題があります。
(2)短時間の副業
フルタイムで働く正社員に副業を認めるとしても、月に1,2日程度突発的に働く特別なケースに限られます。
逆に言えば、会社が社員の副業を本気で認める気があるなら、社員の勤務日数減らす等の対応が必要となります。
(3)グーグルの20%ルール
参考になるのが、グーグルの「20%ルール」です。グーグルでは、全労働時間の20%を、いつもの通常どおりの業務とは別の時間(重要だが緊急ではない業務等)に使うべきというルールがあります。
イノオベーションを目的として副業を認めるのであれば、経営戦略として、社員の労働時間の短縮等に本気で取り組む必要があります。
高齢者の副業・兼業
定年後の労働条件について、出勤日数を減らした場合には、その減らした分だけ、社員の時間が空きます。当該社員が副業をしたいと申請してきたときには、副業を認める必要があるでしょう。
従業員にも生活があります。また、会社には勤務時間外の自由時間について制限することはできないからです。
短時間労働者の副業・兼業
短時間労働者(例えば、1日の労働時間が3時間、例えば、週の勤務日数が2日)の社員もいます。当該社員が副業をしたいと申請してきたときには、副業を認める必要があるでしょう。
従業員にも生活があります。また、会社には勤務時間外の自由時間について制限することはできないからです。
経営戦略としての副業・兼業
(1)経営戦略として、社員に副業・兼業を後押して、イノベーションを起こすのは難しいと言わざるをえません。
(2)イノベーションを目的とした人事戦略であれば、別の選択肢を検討すべきです。定年後の再雇用社員や、短時間労働者が副業を申請してきたら、法律の手続どおり副業を認めるという理解が正しいと思われます。
参考
ビジネスガイド2022年5月号64頁以下
ビジネスガイド2023年6月号66頁以下