親御さんが亡くなり、遺品を整理していたところ、「内容の異なる遺言書が2通見つかった」というトラブルは、相続の現場で時々起こる事例です。
「どちらの遺言書に従うべきなのか」「法律上はどう扱われるのか」と、途方に暮れてしまう方も多いでしょう。
結論からお伝えすると、日付の新しい遺言書が優先されます。しかし、2通の遺言書の書き方や内容によっては、単純に「新しい方だけを信じればよい」とは限らないケースもあります。
この記事では、複数の遺言書が見つかった場合の優先順位や、内容が矛盾しているときの対処法、そして故人の意思を正しく実現するための注意点を解説します。
複数の遺言書が見つかった場合の優先順位
民法では、遺言者はいつでも、どのような方法でも、遺言書の全部または一部を撤回できると定められています。
そのため、日付の異なる遺言書が複数出てきた場合、基本的には作成された日付が最も新しいものが優先されるルールになっています。
前の遺言書は無効になるのか?
新しい遺言書が見つかったからといって、古い遺言書のすべてが完全に無効になるわけではありません。
2通の遺言書の内容を比較したとき、「抵触する(矛盾する)部分」についてのみ、新しい遺言書が優先される仕組みです。
例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
- 古い遺言書(令和4年作成):自宅の土地を長男に相続させ、預貯金を次男に相続させる
- 新しい遺言書(令和6年作成):自宅の土地を長女に相続させる
この場合、自宅の土地については新しい遺言書(令和6年)が優先されるため長女が相続します。しかし、預貯金の相続について新しい遺言書で触れられていなければ、古い遺言書(令和4年)の内容がそのまま有効となり、次男が預貯金を相続することになります。
このように、矛盾のない部分については、古い遺言書の効力が維持されるケースもあるため注意が必要です。
遺言書の種類による優先順位の違い
「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」など、作成された遺言書の種類によって優先順位が変わるのではないかと疑問に思う方もいるでしょう。
結論から言うと、遺言書の種類(形式)によって優劣が決まることはありません。
公正証書遺言は公証人が作成するため法的信頼性が高いものですが、だからといって自筆証書遺言よりも常に優先されるわけではありません。
- 例1:令和4年に「公正証書遺言」で全財産を長男に渡すと書いた
- 例2:令和6年に「自筆証書遺言」で全財産を次男に渡すと書き直した
この場合、形式は公正証書遺言の方が厳格ですが、日付が新しい「自筆証書遺言」の方が優先されます。
ただし、自筆証書遺言は形式上の不備で無効になってしまうリスクがあります。そのため、形式の不備がないかを専門家と一緒に慎重に確認することが重要です。
複数見つかったときに相続人が注意すべきポイント
複数の遺言書が見つかった場合、安易に自己判断で「これが新しいからこちらに従おう」と遺産分割を進めてしまうと、後々大きなトラブルに発展するおそれがあります。以下のポイントに注意して対応してください。
勝手に開封しない(検認の手続き)
自宅の引き出しなどから見つかった自筆証書遺言(法務局での保管制度を利用していないもの)は、相続人が勝手に開封してはいけません。
家庭裁判所において「検認(けんにん)」という法的手続きを受ける必要があります。封筒に入った自筆証書遺言を勝手に開けてしまうと、5万円以下の過料に処せられる可能性があるほか、遺言書の偽造や変造を疑われる原因になります。
公正証書遺言や、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用していた遺言書については、検認の手続きは不要です。
遺言書偽造の疑いや遺言能力の有無
日付が新しい遺言書であっても、以下のような事情がある場合は有効性が争われます。
- 親が認知症の症状が重い時期に書かれたもので、遺言能力(自分の行為の結果を弁識する能力)がなかったと疑われる場合
- 他の相続人によって偽造された可能性がある場合
「明らかに字風が違う」「内容がおかしい」といった不審な点がある場合は、そのまま受け入れず、筆跡鑑定や医療記録の調査などを検討する必要があります。
不動産の相続登記義務化に注意
遺言書によって不動産を相続した場合、相続人はその所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をしなければならないという法律上の義務があります(2024年4月1日施行)。
複数の遺言書があることで「どれが有効か決まらずに期限を過ぎてしまった」ということになると、過料の対象となるリスクが生じます。
また、2026年4月からは住所変更登記の義務化も控え、不動産の名義変更に関する法規制は厳格化しています。
まとめ:判断に迷ったら弁護士などの専門家へ
親が遺言書を2通残していた場合、基本的には「日付が新しい遺言書」が優先され、矛盾する部分は古い遺言書が撤回されたものとみなされます。
しかし、「2通の遺言書のどちらが有効と言えるのか」「内容がどう抵触しているのか」「遺言能力に問題はなかったか」など、一般の方だけで正確に判断するのは非常に困難です。
相続人間での「言った・言わない」の争いに発展する前に、遺言書の有効性や法的解釈について、相続問題に強い弁護士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。正確な法知識に基づき、円満かつ確実な相続手続きを進めましょう。
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