家庭裁判所での調停が成立し、無事に「調停調書」が作成されたとしても、相手がその取り決め(代償金の支払いなど)を任意に守ってくれないケースがあります。そのような場合、泣き寝入りする必要はありません。調停調書には確定判決と同一の強い法的効力(債務名義)があるため、これを利用して裁判所に強制執行を申し立てることができます。
この記事では、調停調書作成後に相手が支払いに応じない場合の「強制執行(預金差押え・不動産競売)」の手続きについて、分かりやすく解説します。
調停調書に基づく強制執行とは?
裁判所の調停で合意した内容は「調停調書」という書面にまとめられます。この調停調書は、裁判の判決と同じように法的な強制力を持つ「債務名義」となります。
したがって、相手が「お金がない」「後で払う」などと言って代償金や財産分与の支払いに応じない場合、裁判所に強制執行を申し立て、相手の預貯金や不動産などの財産を差し押さえて回収することが可能です。強制執行の主な対象には、以下のようなものがあります。
- 預貯金債権(銀行口座の差押え)
- 不動産(自宅や土地の競売)
- 動産(高価な美術品や貴金属など)
- 給与債権(勤務先からの給与の差押え)
中でも、比較的スピーディーに結果が出やすい「預金差押え」と、大きな回収が見込める「不動産競売」が実務上よく利用されます。
強制執行の前提条件:執行文の付与等
調停調書があれば直ちに強制執行ができるわけではありません。事前に以下の手続きが必要となります。
- 執行文の付与の申し立て:調停調書を作成した家庭裁判所に対し、強制執行を行うための「執行文」をつけてもらうよう申請します。
- 送達証明書の取得:調停調書の内容が相手に確実に届いていることを証明する「送達証明書」を取得します。
これらが揃って初めて、強制執行の申し立てが可能になります。
預金差押え(債権執行)の手続きとメリット
相手の銀行口座(金融機関や支店名)が分かっている場合、最も効果的で利用されるのが「預金差押え(債権執行)」です。
預金差押えの手続きの流れ
- 財産調査・口座の特定:相手の預金口座がある金融機関(銀行名・支店名)を特定します。相手の協力が得られない場合は、弁護士会を通じた照会や、2024年4月に本格稼働した新制度である「財産開示手続」や「第三者からの情報提供制度」を活用して調べることになります。
- 申し立て書類の作成と提出:相手の住所地を管轄する地方裁判所に対し、債権執行の申し立てを行います。
- 差押命令の発令:裁判所が審査し、問題がなければ金融機関に対して「差押命令」を送達します。この時点で、相手の口座から引き出しができなくなります。
- 取立て:差押命令が金融機関に届いた後、裁判所を介さず直接金融機関から預金残高を取り立てます。
預金差押えのメリット
預金差押えの最大のメリットは、不動産競売に比べて手続きが比較的スピーディーであり、相手に心理的なプレッシャーを与えられる点です。口座が凍結されるため、相手が連絡を無視しづらくなり、結果として任意の支払いに応じてくるケースも少なくありません。
不動産競売の手続きと注意点
相手がまとまった預貯金を持っておらず、自宅や土地などの不動産を所有している場合は、「不動産競売」の申し立てを検討します。
不動産競売の手続きの流れ
- 不動産の調査・特定:対象となる不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得し、正確な所有者や抵当権の有無を確認します。最新の法改正により、所有者の住所変更登記の義務化(2026年4月全面施行)なども進んでいるため、登記情報の正確な確認が重要です。
- 競売申し立ての準備:執行文付与済みの調停調書や、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書などを揃え、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に競売を申し立てます。
- 裁判所の差押えと執行官の調査:裁判所が競売開始決定を下し、不動産を差し押さえます。その後、執行官や評価人が現地を訪れ、不動産の価値を評価するための調査を行います。
- 売却・配当:物件情報が公開された後、入札によって買い手が決まります。売却されて得られた代金から、諸費用を差し引いた残額があなたの手元に分配(配当)されます。
不動産競売の注意点
不動産競売は多額の回収が見込める一方、手続きが完了するまでに半年から1年以上と長い時間がかかるというデメリットがあります。また、裁判所に予納金(数十万円〜)をあらかじめ納める必要があるため、初期費用を用意しなければなりません。
スムーズな強制執行のために弁護士に相談すべき理由
調停調書の作成まではご自身で行った方でも、いざ強制執行となると、専門的な書類作成や裁判所とのやり取り、財産の特定など、多くのハードルが存在します。
- 相手の財産(銀行口座や不動産)がどこにあるか分からない
- 執行文の付与や複雑な申立書の書き方がよくわからない
- 相手が財産を隠してしまうのではないかと不安である
このようなお悩みがある場合は、強制執行の手続きを熟知した弁護士に代理を依頼することをおすすめします。弁護士であれば、法的な手続きをスムーズに進められるだけでなく、財産の調査や相手との交渉も含めてトータルでサポートを受けることができます。
調停の取り決めが守られずにお困りの際は、一人で悩まず、できるだけ早い段階で専門家である弁護士にご相談ください。
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