相続の際、特定の相続人による故人の財産の使い込み(使途不明金)が発覚した場合、感情的な対立から裁判に発展することが少なくありません。しかし、裁判には時間も費用もかかるため、当事者間で話し合い、裁判外の任意示談によって解決を目指すケースが多く見られます。
本記事では、使い込みを認めさせ、将来の未払いを防ぐための「分割払い」や「即時差し押さえ特約」を盛り込んだ示談書の文面と、作成時の注意点について法律のプロがわかりやすく解説します。
使途不明金の示談における重要ポイント
使途不明金のトラブルを任意示談で解決する際、単に「お金を返す約束」をするだけでは不十分です。後々の「言った・言わない」の争いを防ぎ、確実にお金を回収するためには、以下の要素が不可欠となります。
- 使い込みの事実および返還債務の存在を明確に認めること
- 返還する金額(総額)と支払い期日・方法を具体的に定めること
- 支払いが滞った場合のペナルティや差し押さえに関する特約を設けること
- 今回の示談以外に、当事者間において一切の債権債務がないことを確認すること(精算条項)
これらを欠いた曖昧な合意書では、相手が途中で支払いを放棄した場合に泣き寝入りせざるを得なくなってしまいます。
使途不明金の示談書に盛り込むべき具体的な条文例
ここでは、使い込みを認めさせ、分割払いと不払い時のリスクヘッジ(即時差し押さえ特約等)を盛り込んだ示談書の具体的な文面例をご紹介します。
示談書の条文構成案
第1条(合意確認と使途不明金の額) 被相続人〇〇〇〇の遺産から、相手方〇〇〇〇が引き出し、費消した金員(以下「本件使途不明金」という)に関し、当事者間で協議の結果、その総額が金〇〇万円であること、および相手方がこれを費消した事実を相互に確認する。
第2条(返還および分割払い)
- 相手方は、請求者に対し、前条の本件使途不明金に対する賠償として、金〇〇万円の支払義務があることを認め、これを以下のとおり分割して支払う。
- 金額:毎月〇〇万円
- 支払い期日:毎月末日までに、請求者の指定する銀行口座へ振り込んで支払う。
- 支払い開始日:20〇〇年〇月〇日より開始し、完済するまで継続する。
- 相手方は、前項の分割金の支払いを一度でも怠ったときは、催告を要せず当然に期限の利益を喪失し、残金全額を一括して直ちに支払うものとする。
第3条(強制執行受諾の意思表示等) 相手方は、本契約に基づく金銭債務の履行を怠り、前条第2項により期限の利益を喪失したときは、直ちに強制執行に服する旨を承諾する。
第4条(清算条項) 当事者間においては、本示談書に定めるもののほか、本件相続に関し、何らの債権債務が存在しないことを相互に確認し、将来に向けて一切異議を申し立てない。
分割払いと不払い対策(差し押さえ特約)の注意点
相手が多額の使い込み金を一括で支払えない場合、分割払いに応じざるを得ないケースが多々あります。しかし、分割払いは長期化するほど不払いリスクが高まります。
そのため、示談書には必ず「期限の利益喪失条項(一度でも支払いが遅れたら全額一括請求できる権利)」を入れなければなりません。さらに実効性を高めるためには、この示談書をそのまま私文書で終わらせるのではなく、「執行認諾文言付公正証書」として作成することが強く推奨されます。
公正証書に「強制執行に服する旨の宣言(執行認諾文言)」を記載しておけば、相手が支払いを怠った際、裁判を起こして判決を得るという長いプロセスを省き、直ちに給与や預貯金口座、不動産などの差し押さえ(強制執行)手続きに入ることが可能になります。
2024年以降の法改正と不動産等の注意点
使い込みの対象が現金だけでなく、被相続人の名義変更を伴う不動産や、未登記の財産に及んでいる場合もあります。
2024年4月からは相続登記が義務化され、さらに2026年4月からは住所変更登記の義務化も控え、不動産の権利関係を放置するリスクはかつてなく高まっています。また、法務局における「所有不動産記録証明制度」なども活用し、被相続人の財産を正確に把握した上で示談交渉に臨むことが求められます。
使途不明金の示談交渉は感情的になりやすく、法的な知識がないまま進めると、相手に言いくるめられて不利な条件で合意させられてしまう危険性があります。確実かつ安全に解決するためには、弁護士などの専門家に相談し、法的に有効で強制力のある書面作成をサポートしてもらうことをご検討ください。
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