遺産の使い込みが発覚した際、「どうにかして返してほしい」「今後の相続で帳尻を合わせたい」と悩む相続人は少なくありません。他の相続人の財産を勝手に使っていた場合、法的なアプローチとして不当利得返還請求権を行使し、将来の相続分からその分を事前に差し引く形で解決することが可能です。本記事では、使い込みをした相続人の将来の相続分から差し引くための具体的な調停和解案や、遺産分割協議書への盛り込み方について詳しく解説します。
遺産の使い込みを将来の相続分から差し引く方法とは?
被相続人(亡くなった方)の預貯金を他の相続人が無断で引き出して使っていた場合、それは遺産に対する侵害行為にあたります。このような使い込みに対しては、不当利得返還請求権や損害賠償請求権を行使して金銭の返還を求めることができます。
しかし、裁判で個別に返還請求訴訟を起こすのは時間も費用もかかります。そこで実務上よく使われるのが、遺産分割の話し合いや調停の中で使い込み分を精算し、将来の相続分から差し引くという方法です。
話し合いによる解決のメリット
- 裁判よりも早期に解決できる
- 感情的な対立を和らげながら実質的な公平を図れる
- 相続財産全体の中で柔軟な調整が可能になる
調停和解案における「不当利得返還請求権と法定相続分の相殺」の仕組み
家庭裁判所の遺産分割調停において使い込みを精算する場合、和解条項には法的な根拠を明確に記載する必要があります。
基本的には、使い込んだ側が「被相続人に対して負担していた不当利得返還債務(または損害賠償債務)」の存在を認め、その債務額と、自身が本来受け取るべき「遺産分割による取得分」とを相殺するという構成をとります。
調停調書に記載される主な要素
- 使い込みを行った事実と金額の特定
- 当該金額が不当利得返還債務に該当することの確認
- 今回の遺産分割において、当該相続人の取得分から使い込み相当額を差し引く旨の合意
- 今後、この使い込みに関して一切の異議を申し立てないという清算条項
遺産分割協議書に盛り込む具体的な文面例
調停を経ずに、相続人全員の話し合い(協議)によって使い込みを差し引く合意に至った場合は、遺産分割協議書に正確な文面を盛り込む必要があります。文面に不備があると、後々「そんな合意はしていない」とトラブルになるおそれがあるため注意が必要です。
以下に、実務で使用される具体的な文面例を示します。
遺産分割協議書の記載例
相続人Aと相続人Bおよび相続人Cは、被相続人〇〇(令和〇年〇月〇日死亡)の遺産分割に関し、以下のとおり合意する。
第1条 相続人Cは、被相続人の生前における預金口座からの引き出し金〇〇万円が、被相続人の財産に対する不当利得に該当することを認め、相続人Cが被相続人に対して負う不当利得返還債務の額が同額であることを確認する。
第2条 相続人A、相続人B、相続人Cは、本協議に基づき、相続人Cが取得する遺産(下記物件表示記載の不動産、および預貯金等)の総額から、前条の不当利得返還債務〇〇万円を差し引くものとし、相続人Cの実際の取得分を減額して分割することに合意する。
第3条 相続人A、相続人B、相続人Cは、本協議書に定めるもののほか、被相続人の相続に関して、何らの債権債務が存在しないことを相互に確認し、将来にわたり一切の異議を申し立てないものとする。
2024年相続登記義務化などの法改正と注意点
遺産の使い込みを含む相続トラブルを解決するにあたっては、近年の法改正にも注意を払う必要があります。
2024年4月から相続登記の申請が義務化されており、遺産分割協議によって不動産を取得した相続人は、取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行わなければなりません。使い込みの精算で揉めて遺産分割協議が長引くと、この登記義務の期限に遅れてしまうリスクが生じます。
また、2026年4月には住所変更登記の義務化も控え、不動産の権利関係や相続人の特定はますます厳格に管理されるようになります。
使い込み解決における注意点
- 使い込みの証拠を確保する: 通帳の取引履歴やATMの防犯カメラ映像など、使い込みを立証できる客観的な証拠がなければ、相手が合意に応じない可能性が高いです。
- 専門家への相談: 不当利得の法的評価や、正確な遺産分割協議書の作成には高度な専門知識が求められます。ご自身のみで交渉を進めず、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
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