亡くなった被相続人が残した遺言書に「遺産は一切残さない」「すべての財産を特定の第三者に遺贈する」などと書かれているのを見て、愕然としたご経験はないでしょうか。残された家族としては、あまりのショックに「本当にこんな遺言書に従わなければならないのか」「不公平だから異議を唱えたい」と思われるのは当然のことです。
結論から申し上げますと、法定相続人が遺言の内容に異議を唱えることは法律上可能です。ただし、感情的に不満をぶつけるだけでは遺言を覆すことはできません。法的な根拠に基づいて適切なアプローチを行う必要があります。この記事では、遺言書の内容に納得がいかない場合に相続人が取れる主な法的手続について、専門家の視点から分かりやすく解説します。
「遺産は残さない」遺言書に対して相続人が取れる2つの対抗手段
「遺産を一切渡さない」という内容の遺言書に対抗するためには、大きく分けて「遺言書の無効を主張する」方法と、「遺留分侵害額請求を行う」方法の2つが存在します。それぞれの要件や特徴を詳しく見ていきましょう。
1. 遺言書の形式不備や意思能力の不備を理由に「無効」を主張する
最初のステップとして検討すべきなのが、そもそもその遺言書が法律上の要件を満たしているか、あるいは有効に作成されたものかという点です。遺言は厳格な法律行為であるため、少しのミスでも無効になるリスクがあります。
- 自筆証書遺言の場合、全文が自書されているか、日付や氏名に漏れがないか、押印がされているかといった形式要件を確認します(※財産目録についてはパソコン作成や通帳コピー等も認められていますが、署名押印が必要です)。
- 遺言書作成時に、認知症の進行などにより遺言の内容やその結果を理解する判断能力(意思能力)が著しく低下していた場合、その遺言は法的効力を持ちません。
- 形式や意思能力に疑義がある場合、まずは相続人全員による協議や、必要に応じて裁判所の調停・訴訟を通じて遺言の無効を争うことになります。
2. 「遺留分侵害額請求」を行って最低限の取り分を確保する
たとえ遺言書の形式が完璧で、遺言者に意思能力があったとしても、一定の相続人には法律で保障された最低限度の遺産の取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」が存在します。
- 遺留分が認められるのは、配偶者、子(およびその代襲相続人)、直系尊属(父母や祖父母など)です。兄弟姉妹には遺留分はありません。
- 「遺産は一切残さない」と書かれていても、これらの遺留分権利者は、財産を多く取得した受遺者や相続人に対して、金銭の支払いを求める**「遺留分侵害額請求権」**を行使することができます。
- 近年は、2024年の相続登記義務化や不動産に関する各種法整備が進む中、遺産の大部分が不動産であるケースでも、金銭による精算をスムーズに行うための実務的な知識が不可欠となっています。
遺留分侵害額請求を行う際の注意点と時効
遺留分侵害額請求を行うにあたっては、厳格な期限(時効)が定められている点に最大限の注意が必要です。この期限を過ぎてしまうと、法律上、金銭の請求ができなくなってしまいます。
- 遺留分侵害額請求権は、相続の開始(被相続人の死亡)および「遺留分を侵害する遺言があったこと(遺言書の存在)を知った時」から1年間行使しないと、時効によって消滅します。
- また、知らなかった場合でも、相続開始の時から10年が経過すると除斥期間となり、同様に請求権が消滅するため注意が必要です。
- 請求の意思表示は、口頭で行うのではなく、後々の証拠を残すために「内容証明郵便」を利用して相手方に通知するのが確実で一般的です。
まとめ:泣き寝入りせず、まずは弁護士などの専門家にご相談を
「遺産は残さない」という強烈なメッセージが書かれた遺言書を見せられると、相続人としてはショックで思考が停止してしまうかもしれません。しかし、法律は残された家族の生活保障や公平性の観点から、遺言の内容を無条件に絶対視しているわけではありません。
遺言書の無効主張には医学的・法的な専門知識が必要であり、遺留分侵害額請求にも正確な財産調査や期限管理が求められます。泣き寝入りをしてしまう前に、相続問題に強い弁護士などの専門家に相談し、ご自身の権利を守るための具体的な一歩を踏み出しましょう。
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