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精神科・神経内科の「主治医カルテ」に記載された認知症行動障害(BPSD)

【この記事の監修者】

井上 正人 弁護士(大阪弁護士会所属 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表)

遺産相続において、被相続人の遺言書の有効性が争点となるケースは少なくありません。特に、生前の認知症の程度や、遺言作成時点における「遺言能力(意思能力)」の有無は、裁判において非常に重要な判断材料となります。

遺言能力の有無を判断する上で、裁判官が最も重視するのが医師の作成したカルテや診断書です。その中でも精神科や神経内科の主治医カルテに記載された「認知症行動障害(BPSD)」の記録は、裁判の勝敗を分ける決定打となり得ます。

本記事では、主治医カルテに記載されるBPSDが遺産相続の裁判にどのような影響を与えるのか、専門的な視点からわかりやすく解説します。

主治医カルテのBPSD記録は遺言無効訴訟でどう評価されるか?

Q 主治医カルテのBPSD(周辺症状)の記載は、遺言無効の裁判でどのように影響しますか?
A 「幻覚」「妄想」「徘徊」「暴言」などのBPSDが詳細に記録されている場合、遺言作成時点ですでに重度の認知障害があり、遺言能力が欠如していた強力な証拠とみなされ、裁判官の心証に決定的な影響を与えます。

裁判において、遺言者が遺言書を作成した当時に自分の行為の結果を弁識するだけの能力(遺言能力)があったかどうかが争われるとき、最も客観的で信用性が高い証拠とされるのが「医療記録」です。

日常の生活状況に関する親族の証言は主観的と判断されがちですが、専門医が診察の都度記録したカルテは、当時の精神状態を正確に映し出す客観的資料として扱われます。特に、精神科や神経内科のカルテに記載されるBPSD(周辺症状)は、遺言能力の有無を推認する上で極めて重要な意味を持ちます。

遺言能力を左右するBPSDの具体例

精神科や神経内科の主治医カルテに以下のような症状が継続的あるいは頻繁に記載されている場合、遺言無効を主張する側にとって極めて有利な状況証拠となります。

  • 幻覚(いない人に見える、幻聴が聞こえるなど)
  • 被害妄想(「財布を盗まれた」「家族に毒を盛られている」といった家族への不信感)
  • 徘徊や目的のない外出・行動
  • 突然の暴言や暴力行為、激しい易怒性

これらの症状が遺言作成日と近い時期にカルテに記載されている場合、「自分の財産を適正に管理・処分する判断力が著しく低下していた」と裁判所に判断されやすくなります。

「幻覚」「妄想」「徘徊」「暴言」が裁判官の心証に与える決定打

裁判官は法律の専門家ですが、医学的な判断については客観的な医療記録に大きく依存します。カルテに生々しいBPSDの記録が残されていると、裁判官の心証に強いインパクトを与えます。

1. 「妄想」が遺言内容に直結する場合の危険性

特に「被害妄想」や「物盗られ妄想」の記載は決定打になりやすい傾向があります。例えば、「長男に財産を奪われる」「介護してくれない親族に財産を取られる」といった妄想に囚われていた時期に、特定の相続人へ全財産を譲るような遺言書が作成されていた場合、「妄想の内容が遺言の動機や内容に直接影響を与えている(意思決定の歪み)」と評価され、遺言無効の判断を下す強力な根拠となります。

2. 症状の「継続性」と「重症度」の証明力

単発的な物忘れ(中核症状)だけでは、直ちに遺言能力の否定にはつながりにくいのが実情です。しかし、BPSD(周辺症状)が現れているということは、脳の機能障害が日常生活や対人関係、行動コントロールにまで及んでいることを示します。

カルテの時系列データから、症状が徐々に悪化している様子や、遺言作成前後において精神状態が著しく不安定であったことが読み取れる場合、遺言作成当日の瞬間的な意思能力さえも否定される要因となります。

現代の相続実務におけるカルテ調査の重要性と法的注意点

遺言無効確認請求訴訟などを検討する場合、あるいは逆に遺言の有効性を死守する場合、訴訟を見据えた早期のカルテ保全と証拠収集が不可欠です。

証拠収集における実務上のポイント

主治医カルテや看護記録、デイサービスの連絡帳などは、時間が経過すると廃棄されてしまうリスクがあります。また、法改正により相続手続きにおけるルール(2024年の相続登記義務化や、2026年4月の住所変更登記義務化など)が厳格化・デジタル化される中、不動産の権利関係だけでなく、こうした「人的な意思能力の立証」の重要性はますます高まっています。

カルテを取得・分析する際には、以下の点に留意する必要があります。

  • 文書送付嘱託や証拠保全の手続きを活用して、カルテを漏れなく収集すること
  • 記載されたBPSDが、投薬の副作用による一時的なものか、認知症の進行によるものかを医学的に切り分けること
  • 遺言作成日とカルテ記載日の「時間的な近接性」を精査すること

主治医カルテに記載された「幻覚」「妄想」「徘徊」「暴言」などのBPSDは、単なる患者の症状メモではありません。それは、遺産の行方を決定づける裁判において、真実の意思能力を暴く最も強力な鍵なのです。遺言の有効性をめぐるトラブルでお悩みの方は、医療記録の解析に精通した専門家へ早期に相談することをお勧めします。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人 (いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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