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病院の「退院時要約(サマリー)」に記載された脳機能障害・高次脳機能障害

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、遺産分割・遺留分侵害額請求・相続放棄・不動産登記義務化等の相続実務経験に基づき、最新の民法および裁判所実務に沿ってわかりやすく解説しています。

病院の「退院時要約(サマリー)」と遺言能力の関係とは

Q 病院の退院時要約(サマリー)に記載された高次脳機能障害は、遺言能力の判断にどう影響しますか?
A 【遺言能力の有無を証明する極めて重要な客観的証拠となります】退院時要約に記載された脳卒中や頭部外傷後の高次脳機能障害の状況は、遺言者が遺言作成時に自身の財産状況や遺産の分け方を正常に判断できる能力があったかを証明・否定するための決定的な資料となります。
【紛争予防と弁護士への相談が不可欠です】「故人に正常な判断能力が本当にあったのか」という遺言書の有効性をめぐる争いでは、主観的な証言よりも客観的な医療記録が重視されます。そのため、早い段階で専門の弁護士に相談し、サマリー等の証拠を分析した上で法的な対抗策を講じることを強くおすすめします。

ご家族が亡くなられた後、遺産の分割をめぐって「故人には遺言書を作成するだけの正常な判断能力が本当にあったのか」という争いが生じることがあります。特に、脳卒中や頭部外傷などを経験された方の遺言書では、その有効性が裁判などで争点になりやすい傾向にあります。

このような法的紛争において、決定的な証拠の一つとなるのが、病院が作成する「退院時要約(サマリー)」です。そこには、患者の入院中の状態や退院時の認知機能、脳機能障害の程度が詳細に記録されています。

本記事では、退院時要約に記載される脳機能障害や高次脳機能障害が、遺言能力の法律上の判断にどのような影響を及ぼすのかを専門的な視点から解説します。

脳卒中や頭部外傷後に残る「高次脳機能障害」とは

脳卒中(脳梗塞や脳出血)や交通事故などの頭部外傷を負った場合、命を取り留めた後であっても、目に見えにくい障害が残ることがあります。これが高次脳機能障害です。

高次脳機能障害には、主に以下のような症状が含まれます。

  • 記憶障害(新しい出来事が覚えられない)
  • 注意障害(気が散りやすく、物事に集中できない)
  • 遂行機能障害(計画を立てて物事を実行することができない)
  • 社会的行動障害(感情のコントロールが効かなくなる、依存的になる)

これらは身体的な麻痺とは異なり、一見しただけでは周囲が気づきにくいという特徴があります。しかし、日常生活や社会生活、そして法律行為を行う上では極めて重大な支障となります。

遺言能力の判断基準と高次脳機能障害

法律上、遺言を作成するには「遺言能力」が備わっていなければなりません。民法上、遺言者は自らの行為の結果を弁識し得る能力(意思能力)を有している必要があります。

最高裁判所の判例でも、遺言能力の有無は「遺言書作成時の遺言者の精神上の障害の程度」だけでなく、「遺言内容の複雑さ」や「遺言書作成に至る経緯」などを総合して判断すべきとしています。

高次脳機能障害、特に遂行機能障害や重度の記憶障害がある場合は、自分の財産がどこにどれだけあり、誰にどの財産をどれだけ相続させることがどのような結果をもたらすかを、的確に認識・判断することが困難になります。そのため、遺言能力が否定される可能性が高くなります。

病院の「退院時要約(サマリー)」が証拠として重視される理由

遺言の有効性が裁判などで争われた場合、裁判所や専門家(弁護士や鑑定医)が最も重視するのが客観的な医療記録です。

遺言書を作成した当時、本人の主治医や周囲の親族が「しっかりしていた」と主張したとしても、それだけでは法的・客観的な証明としては不十分とみなされることが多々あります。ここで決定的となるのが、医療の専門家が記録した「退院時要約(サマリー)」です。

退院時要約に記載される注目すべきポイント

退院時要約には、医師や看護師、リハビリテーション専門職(作業療法士や言語聴覚士など)の所見が網羅されています。特に以下の項目が、遺言能力の有無を推認する材料となります。

  • 退院時の長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)MMSE(ミニメンタルステート検査)などの認知機能検査のスコア
  • 「見当識障害(日付や場所がわからない)」の有無
  • 「感情失禁」や「易怒性(怒りっぽい)」といった行動上の問題の記載
  • 退院後の生活において介護や見守りがどの程度必要とされていたかの記録

もし退院時要約に「重度の記憶障害が残存」「見当識に混乱が見られる」といった記載がある場合、その時期に作成された遺言書は、「遺言能力を欠いていた」と判断される強力な根拠になります。

逆に、身体的な疾患で入院していても、退院時要約に認知機能や脳機能の低下を示す記載が一切なく、正常範囲内であれば、遺言能力を肯定する強い証拠になり得ます。

最新の相続実務と法的リスクへの備え

近年の相続実務においては、不動産登記の義務化や各種法制度の整備に伴い、遺言書の果たす役割がますます重要になっています。しかし、高齢化や医療技術の向上に伴い、判断能力に不安を抱えた状態での遺言書作成をめぐるトラブルも急増しています。

亡くなった被相続人のカルテや退院時要約を取り寄せるには、相続人としての法的な手続き(開示請求)や、場合によっては弁護士を通じた証拠保全の手続きが必要になります。

「故人が認知症や高次脳機能障害を患っていたのではないか」「退院時要約の内容と遺言書の時期が矛盾しているのではないか」といった疑問や争族の懸念がある場合は、憶測で判断するのではなく、相続問題や医事法務に精通した弁護士などの専門家へ早期に相談することを強く推奨いたします。専門的な医療記録の読み解きと法的評価を通じて、正確な事実関係を明らかにすることが解決への第一歩となります。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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