亡くなった親の預金から葬儀代を支払うと相続放棄できなくなる?
親が亡くなった際、葬儀費用を捻出するために親名義の預金口座からお金を下ろして支払うケースは少なくありません。しかし、親に借金などのマイナスの財産がある場合、「親の預金に手をつけると、相続放棄ができなくなるのではないか」と不安になる方も多いでしょう。
結論からお伝えすると、「社会的儀礼として執り行われる、一般的な範囲内の葬儀費用」であれば、亡くなった親の預金から支払っても相続放棄は認められる傾向にあります。
ただし、一歩間違えれば相続放棄が一切認められなくなる重大なリスクをはらんでいます。この記事では、どのような行為が「処分行為」となり相続放棄ができなくなるのか、その具体的な境界線と注意点を詳しく解説します。
なぜ「親の預金を使うこと」が問題になるのか?
相続放棄を検討している場合、被相続人(亡くなった親)の財産には一切手をつけてはならないのが原則です。これには、民法が定める「法定単純承認」というルールが関係しています。
法定単純承認とは
民法第921条1号では、相続人が相続財産の全部または一部を「処分」したときは、相続を単純承認(すべての財産と借金を引き継ぐこと)したものとみなすと規定されています。
一度でも単純承認とみなされる行為をしてしまうと、たとえ後から「家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出した」としても、その放棄は無効になってしまいます。
預金引き出しは原則として「処分行為」にあたる
亡くなった親の預金は、死亡した瞬間から「相続財産(遺産)」となります。これを勝手に引き出して使用する行為は、原則として遺産の「処分」に該当します。そのため、葬儀代という名目であっても、慎重に対応しなければ相続放棄に重大な支障をきたすのです。
葬儀代の支払いが「処分行為」にならない理由と許容範囲
原則として遺産の処分は禁止されていますが、判例や実務においては、「葬儀費用を遺産から支払うことは、直ちに処分行為(単純承認)には当たらない」と判断されるのが一般的です。
葬儀は人間として執り行うべき当然の社会的儀礼であり、その費用を故人の財産から賄うことは人道上も合理的であると考えられているためです。
ただし、何でも認められるわけではありません。許容されるのはあくまで「常識的な範囲内」の実費のみです。
認められる可能性が高い費用(許容範囲内)
- 火葬費用、通夜・告別式の基本プラン料金
- 僧侶への読経料、お布施(常識的な金額)
- 火葬場への移動費や必要最小限の飲食代
認められない可能性が高い費用(処分行為とされるリスク大)
- 故人の社会的地位や遺産の額に見合わない、極めて豪華な葬儀費用
- 新規に購入する高額な墓石や仏壇の費用
- 葬儀後の法要(四十九日や一周忌など)の過度な会食費用
特に、すでにあるお墓に納骨する費用は認められやすいですが、新しく数百万円もする墓地や墓石を購入する行為は、「葬儀費用」の枠を超えた遺産の処分と判断される可能性が極めて高いため、絶対に親の預金から支払ってはいけません。
親の預金から葬儀代を出す際の「4つの鉄則」
もし、やむを得ない事情で親の預金を下ろして葬儀代に充てる場合は、後から家庭裁判所や債権者に疑われないよう、以下の4つのルールを必ず守ってください。
1. 領収書や明細書をすべて保管する
「何にいくら使ったのか」を客観的に証明できるようにすることが最も重要です。葬儀社からの見積書、請求書、領収書はもちろん、お布施など領収書が出ないものについては、支払った日付、金額、宛先(寺院名など)をメモした「支払証明書」を自作して保管しておきましょう。
2. 葬儀費用以外の目的には1円も使わない
引き出したお金から、ついでに「親の未払いの医療費」や「施設の退去費用」、「水道光熱費の未払い分」などを支払ってしまうケースがあります。これらは葬儀費用とは区別され、「債務の弁済」という処分行為とみなされるリスクが非常に高いため、手をつけてはいけません。
3. 香典を優先して葬儀代に充てる
葬儀の際、参列者から受け取る「香典」は、遺族(喪主)への贈与とされるため、亡くなった親の遺産(相続財産)には含まれません。したがって、葬儀費用はまず香典から支払い、足りない不足分のみを親の預金から補填するという方法をとるのが、法律上最も安全です。
4. 預金の引き出しは「仮払い制度」を利用する
法改正(2019年7月施行)により、遺産分割前であっても、各相続人が一定の範囲内で亡くなった親の預金を単独で引き出せる「遺産分割前の相続預払制度」が創設されました。ただし、この制度を利用して引き出したお金であっても、用途が不適切であれば単純承認とみなされる点に変わりはありません。引き出し・使用の際は必ず使途を「葬儀費用の実費」に限定してください。
確実な相続放棄のために専門家への相談を
「この金額の葬儀代なら大丈夫だろう」と自己判断で親の預金を使ってしまうと、後から債権者に「単純承認が成立している」と主張され、親の莫大な借金を背負わされる事態になりかねません。
2024年4月からは相続登記の義務化がスタートし、2026年4月には住所変更登記の義務化も控えるなど、相続に関する法制度は厳格化の傾向にあります。
少しでも不安がある場合や、親に借金があることが分かっている場合は、預金に手をつける前に、まずは相続問題に強い弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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