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長谷川式スケール(HDS-R)やMMSEの点数と「遺言能力」の裁判での判断基準

【この記事の監修者】

井上 正人 弁護士(大阪弁護士会所属 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表)

家族が遺言書を残したものの、その当時の認知症の症状が進んでいた場合、「本当に本人に遺言を書く能力(遺言能力)があったのか」とトラブルになるケースは少なくありません。

裁判において、遺言能力の有無を判断する上で重要な客観的証拠となるのが、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSEといった認知症の検査点数です。本記事では、これらの点数やテスト結果が裁判でどのように評価されるのか、法的基準について分かりやすく解説します。

長谷川式スケールやMMSEの点数は遺言能力の判断にどう影響するのか?

Q 長谷川式スケール(HDS-R)やMMSEの点数が低ければ、遺言書は無効になりますか?
A 点数が低いことは遺言能力を否定する強力な証拠となりますが、それだけで自動的に無効になるわけではありません。裁判では、点数だけでなく、遺言内容の複雑さや作成時の具体的な言動などを総合的に考慮して判断されます。

遺言能力とは、自分が遺言書に書く内容の意味や、それが自分の財産や相続人に与える法律上の影響を理解し、判断することができる精神能力のことを指します。

裁判所が遺言能力の有無を判断する際、医師が作成したカルテや看護記録、そしてHDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSEといった神経心理学的検査の点数は、極めて重要な客観的資料として扱われます。特に2024年現在、高齢化に伴いこうした争いは増加傾向にありますが、点数そのものが絶対的な基準として一律に適用されるわけではありません。

HDS-RやMMSEの点数ごとの一般的な傾向

一般的に、HDS-R(30点満点)やMMSE(30点満点)のスコアは、認知症の重症度を測る目安として以下のように分類されます。ただし、裁判における評価は、単に「何点だったか」ではなく、遺言書を作成した時期と検査日との近接性が重視されます。

20点以下(軽度認知障害・軽度認知症)の評価

HDS-Rの点数が20点前後である場合、軽度の認知機能低下が認められます。この段階であれば、日常生活に支障がないことも多く、遺言内容が「全財産を長男に相続させる」といった比較的単純なものであれば、遺言能力が肯定される余地が十分にあります

10点未満(中等度〜重度認知症)の評価

HDS-Rの点数が10点未満、あるいはMMSEで同程度まで低下している場合、時間や場所の感覚(見当識)が著しく障害されている状態といえます。この状態にある被相続人が遺言書を作成した場合、裁判では「遺言内容を理解し、判断する能力が著しく欠けていた(遺言能力なし)」と判断される可能性が非常に高くなります。

遺言内容の「複雑さ」と認知症の重症度の相関関係

裁判所の法的な判断において、HDS-Rなどの点数と並んで重要な意味を持つのが、「遺言内容の複雑さ」です。

遺言能力の有無は、抽象的な認知機能の低下度合いだけで決まるものではありません。「どのような内容の遺言を遺したか」という行為の難易度とセットで判断されます。

  • 単純な内容の遺言 「特定の相続人に全ての財産を相続させる」といった非常にシンプルで分かりやすい内容であれば、多少認知機能が低下している(例えばHDS-Rが15点前後など)状態であっても、自分の意思表示として有効と認められるケースがあります。
  • 複雑な内容の遺言 「複数の不動産の具体的な換価分割方法」「一部の相続人への代償分割の指示」「一般財団法人への寄付や複雑な信託設定」など、高度な法的判断や利害関係の調整が必要な内容である場合、高いレベルの遺言能力が要求されます。そのため、軽度の認知症(HDS-Rが20点前後など)であっても、内容が複雑であれば「遺言能力なし」と判断されるリスクが高まります

裁判で遺言能力が争点になったときの立証方法

もし相続人の間で遺言能力が争いとなり裁判に発展した場合、原告側(無効を主張する側)および被告側(有効を主張する側)は、以下のような証拠を積み上げて主張を立証します。

  • 医療記録の解析 カルテ、看護サマリー、デイサービスの利用記録などから、HDS-RやMMSEの点数だけでなく、周辺症状(せん妄、物盗られ妄想、暴力など)の有無を明らかにします。
  • 医師の意見書・鑑定 主治医や専門医による、当時の中立的な精神状態に関する意見書や、裁判所が選任する医師によるカルテ等に基づく鑑定が行われます。
  • 周辺状況証言 遺言書作成の直前直後における、被相続人の日常の言動(家族の顔が分からなくなっていたか、お金の管理ができていたか等)についての詳細な陳述書が証拠とされます。

長谷川式スケールやMMSEの点数は、遺言能力の有無を推認するための有力な手がかりとなりますが、それだけで結論が自動的に決まるわけではありません。遺言書の法的有効性をめぐる争いは、医学的知見と法的な解釈が複雑に絡み合うため、非常に専門性の高い判断が求められます

もし遺言能力に疑義がある遺言書が出てきてお困りの場合や、ご自身の遺言書作成にあたって将来の無効リスクを懸念されている場合は、早めに相続問題に精通した弁護士などの専門家にご相談することをおすすめします。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人 (いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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