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「公正証書遺言」であっても無効になるケース:公証人が見抜けなかった認知症

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、遺産分割・遺留分侵害額請求・相続放棄・不動産登記義務化等の相続実務経験に基づき、最新の民法および裁判所実務に沿ってわかりやすく解説しています。

相続において、故人の最後の意思表示である遺言書は非常に強い効力を持ちます。中でも、公証人が関与して作成する「公正証書遺言」は、形式上の不備が起こりにくく、最も確実な遺言方法と一般的には信じられています。しかし、「公正証書遺言だから絶対に安心」とは言い切れないのが実情です。

実は、公証人が関与して作成された遺言であっても、後になって「遺言能力(意思能力)が欠けていた」として無効確認訴訟が起こされ、実際に遺言が無効と判断されるケースが存在します。なぜ、法律の専門家である公証人が作成したにもかかわらず、そのような事態が起きるのでしょうか。今回は、意思能力の欠如をめぐる裁判の実態や争い方について詳しく解説します。

公正証書遺言が無効になる理由とは?

Q 公証人が作成した公正証書遺言であっても、後から認知症などを理由に無効になることはあるのですか?
A 【結論と理由】公証人が作成した公正証書遺言であっても、作成時に遺言者の意思能力(遺言能力)が欠けていたと裁判で証明された場合は無効となります。公証人は法律の専門家ですが医師ではないため、ごく短時間の面談や「取り繕い現象」を見抜けず、認知症による判断能力の低下に気づかないまま遺言書が作成されてしまうケースがあるためです。
【対策と弁護士活用のポイント】公正証書遺言の無効を主張するには、当時のカルテや看護記録などの医療証拠を集め、遺言能力の有無を医学的・法律的に立証する必要があります。親族間で「遺言者の認知症が疑われる」「内容に納得がいかない」というトラブルが生じた場合は、個人での判断を避け、相続問題や無効確認訴訟に精通した弁護士へ早めにご相談ください。

公正証書遺言を作成する際、公証人は遺言者が自分の耳で聞き、自分の口で遺言の内容を話し、意思表示ができているかを確認します。しかし、公証人はあくまで法律の専門家であり、医師ではありません。

高齢者の中には、一時的に受け答えがしっかりしているように見えたり、簡単な質問には愛想よく返答できたりするケースが少なくありません。これを医学的には「取り繕い現象」と呼びますが、この状態にある人は、複雑な財産の状況を理解し、誰にどの財産をどれだけ分けるべきかという「遺言の内容を理解し、その結果を弁識する能力(遺言能力)」が著しく低下していることがあります。

公証人との短い面談時間だけでは、このような潜在的な認知症や意思能力の欠如を見抜くことが極めて困難であるため、形式的には有効な公正証書遺言が生まれてしまうのです。

実際にあった重要判例と裁判所の判断

過去の裁判例でも、公証人が作成した公正証書遺言が「遺言者の意思能力欠如」を理由に無効とされたケースは多数存在します。

最高裁判所の判例などでも示されている通り、遺言能力の有無は、単に「病名」や「要介護度」だけで判断されるわけではありません。裁判所は、以下のような要素を総合的に考慮して判断を下します。

  • 遺言書作成当時の医学的カルテや看護記録(認知症の進行度や症状の記録)
  • 作成前後の日常の言動や行動の異常性(日時や家族の認識ができていたか等)
  • 遺言内容の複雑さと、遺言者の財産状況の理解度のバランス
  • 遺言に至った動機や、特定の相続人との人間関係の不自然さ

特に、医師の診断書で「中等度以上の認知症」と認められているような時期に作成された遺言書は、たとえ公証人が立ち会って作成されたものであっても、裁判によって無効と判断される可能性が高くなります。

公正証書遺言の無効を裁判で争う方法

故人の遺言によって不利益を受けた相続人は、家庭裁判所や地方裁判所に対して遺言無効確認の訴えを提起し、法的争いに持ち込むことができます。この裁判において最も重要なポイントは、「原告側が遺言能力の欠如を立証する責任を負う」という点です。

「公証人が作ったのだから怪しい」という主観的な主張だけでは、裁判所を動かすことはできません。客観的かつ医学的な証拠を集め、裁判官に「この当時の被相続人は自分の財産を処分する判断能力がなかった」と確信させなければならないのです。

裁判を有利に進めるための主な立証手段

  1. 医療カルテや介護記録の確保 病院のカルテ、看護記録、ケアマネジャーが作成するケアプランやサービス利用表などは、当時の精神状態を示す最も強力な客観証拠となります。特に「見当識障害(今日が何日か、ここはどこかわからない症状)」の有無が重要視されます。

  2. 主治医や関係者への意見聴取・証人尋問 当時の状態を直接診察していた主治医の意見書や証言は、裁判において決定的な影響力を持ちます。また、同居していた親族や近隣住民の陳述書も補足的な証拠として活用されます。

  3. 医学的な鑑定(カルテ鑑定など) 当事者間の主張が対立した場合、裁判所を通じて専門の医師にカルテなどを渡し、遺言能力の有無に関する「鑑定」を依頼することがあります。この鑑定結果が裁判の勝敗を分ける大きな分岐点となります。

相続トラブルを防ぐための注意点と専門家への相談

このように、公正証書遺言であっても意思能力の欠如を理由に無効を争うことは十分に可能です。しかし、裁判は膨大な時間と精神的負担を伴うため、決して容易な道のりではありません。

もし「認知症の親が、特定の親族にだけ全財産を遺す公正証書遺言を作っていた」「明らかに意思能力が疑われる状態で遺言が作成された」といった状況に直面した場合は、できるだけ早い段階で相続問題や遺言無効訴訟に精通した弁護士に相談することを強くおすすめします。

公正証書遺言の有効性をめぐる争いは専門的な法的知識と医学的証拠の分析が必要不可欠です。泣き寝入りをする前に、まずは実績のある法律事務所の扉を叩き、適切な法的アドバイスを受けるようにしてください。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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