自筆証書遺言の日付が不鮮明・「吉日」の場合の効力
故人が遺した遺言書を発見した際、そこに書かれている内容だけでなく、形式面にも目を向ける必要があります。特に自筆証書遺言において最も厳格に審査されるのが「日付」の記載です。
もし、遺言書の日付が判読できないほど不鮮明であったり、「〇月吉日」と曖昧に記載されていたりする場合、その遺言書をめぐって相続人間のトラブルに発展するケースが少なくありません。本記事では、日付の不備が遺言に与える影響や、裁判例における判断基準について分かりやすく解説します。
民法968条が求める「日付」の厳格性
自筆証書遺言の方式については、民法968条において詳細に定められています。同条第1項では、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないと規定されています。
この「日付」の記載がなぜそれほど重要視されるのでしょうか。その理由は主に以下の2点があげられます。
- 遺言作成時に遺言者が遺言能力を有していたかを判断するため
- 複数遺言書がある場合に前後関係(新旧)を確定させるため
特に、認知症の進行などが疑われる状況下で作成された遺言書の場合、正確な作成日が特定できなければ、本当に遺言能力がある状態で作られたものか検証できません。したがって、日付の記載は遺言の成否を分ける極めて重要な要素となります。
「〇月吉日」と記載された自筆証書遺言の法的効力
実務上、手紙の慣習などで「〇月吉日」と書くことがありますが、これを自筆証書遺言に用いた場合、絶対的無効と判断されるのが通例です。
最高裁判所の判例においても、自筆証書遺言における日付の記載は、単に暦上の特定の日を示すだけではなく、その日を特定できる客観的な記載でなければならないとされています。「吉日」では具体的な日(1日から末日までの特定の日)が特定できないため、民法が要求する要件を満たさないとみなされます。
たとえ遺言書のほかの部分(全文や署名・押印)が完璧であっても、日付の不備一箇所のせいで遺言書全体が無効になってしまう点には十分な注意が必要です。
日付が不鮮明・一部欠落している場合の裁判例の傾向
「〇月吉日」と明確に書かれているケースのほかにも、日付の判断が分かれるグレーゾーンが存在します。裁判例における具体的な判断基準を見ていきましょう。
訂正や重ね書きがある場合
日付の数字を書き直したり、インクが滲んで読めなくなったりしている場合、誰がいつどのような意図で変更したか分からないため、偽造や変造の危険性が疑われます。結果として、日付の特定性が失われたと判断され、無効になる確率が高いです。
暦上の特定日に欠ける場合(例:「〇月〇日」で年が抜けている)
年が記載されておらず「月日」しか書かれていない場合、他の客観的な事情(封筒の消印や同封された手紙の日付など)を総合考慮して、実質的にその作成年が特定できる例外的なケースを除き、基本的には無効と判断される傾向にあります。
無効な遺言書を発見した場合の対処法
もし「〇月吉日」と書かれた遺言書や、日付が不鮮明な遺言書を見つけた場合、相続人の一存で勝手に破棄したり、逆に有効として手続きを進めたりすることは避けるべきです。
日付の不備によって遺言が無効となれば、遺産分割は法定相続分または相続人全員による遺産分割協議に従って行われることになります。しかし、一部の相続人がその遺言書の有効性を主張し続けると、話し合いが平行線をたどり、最終的に裁判所の調停や審判に発展するおそれがあります。
このようなトラブルを防ぐためにも、遺言書の有効性に疑義が生じた段階で、相続問題に強い法律事務所や専門家に相談し、法的な観点から正確な判断を仰ぐことを強くおすすめします。
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