親族が亡くなった際、遺産の中に「価値のない土地」と「現金や預貯金」の両方が含まれているケースは少なくありません。「実家はいらないけれど、預貯金は相続したい」と考えたとき、どのような手続きを選択すべきでしょうか。
この記事では、不動産の処分方法として検討されることの多い「相続放棄」と「相続土地国庫帰属制度」の決定的な違いについて、専門的な視点からわかりやすく解説します。
相続放棄と相続土地国庫帰属制度の決定的な違い
相続に関する手続きを選択する際、対象となる財産の範囲を正しく理解することが極めて重要です。ここでは、それぞれの制度の基本的な仕組みと違いについて詳しく見ていきます。
相続放棄とは:すべての財産を手放す手続き
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)が残したすべての財産に対する権利と義務を放棄する家庭裁判所の法的手続きです。
相続放棄には、以下のような特徴があります。
- マイナスの財産(借金や住宅ローンなど)だけでなく、プラスの財産(現金、預貯金、不動産など)も一切引き継ぐことができなくなります。
- 相続開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述しなければなりません。
- 一度相続放棄が認められると、原則として撤回することはできません。
つまり、「借金や不要な不動産は引き継ぎたくないが、預貯金だけは欲しい」という都合の良い選択は、相続放棄では認められないのです。
相続土地国庫帰属制度とは:不要な土地だけを手放す制度
2023年4月からスタートした「相続土地国庫帰属制度」は、相続や遺贈によって取得した土地のみを対象として国庫に帰属(国に引き渡す)させることができる制度です。
この制度の最大の特徴は、以下の点にあります。
- 預貯金や他の不動産など、他の相続財産は通常通り相続した上で、管理に困る土地だけを手放すことができます。
- 相続放棄とは異なり、現金や預貯金を手元に残すことが可能です。
- ただし、建物のない更地であることが原則であり、管理に多額の費用がかかる土地や、担保権が設定されている土地などは却下事由に該当するため、すべての土地が手放せるわけではありません。
「預貯金は欲しいが土地はいらない」場合の選択肢
「現金や預貯金は手元に残したいけれど、使い道のない実家の土地や山林はいらない」という場合、相続放棄を選択すると預貯金まで失うことになってしまいます。そのため、実務上は以下のようなアプローチを検討することになります。
遺産分割協議で土地の取得者を決める
まずは、相続人全員による遺産分割協議を行います。現金や預貯金は自身が相続し、不要な土地については他の相続人(あるいは誰も欲しくない場合は特定の相続人)に取得してもらう方法です。
ただし、他の相続人に押し付ける形になると親族間のトラブルに発展しやすいため、慎重な話し合いが求められます。
相続土地国庫帰属制度の利用を検討する
遺産分割によって自分が土地を取得せざるを得ない場合や、相続人全員がその土地を不要としている場合は、相続土地国庫帰属制度の利用を申請するのが有効な解決策となります。
国庫に土地を引き渡すためには、申請時に「審査手数料」が、承認された場合には「10年分の土地管理費相当額(負担金)」を納付する必要がありますが、預貯金などの遺産からその費用をねん出することが可能です。
最新の法的リスク:相続登記義務化への注意点
不動産を放置することに対する法的なペナルティは近年非常に厳しくなっています。
- 2024年4月より、相続登記の申請が義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を行わなければなりません。
- 正当な理由なく放置すると、10万円以下の過料の対象となります。
- さらに、2026年4月からは住所変更登記の義務化も控え、不動産の権利関係を明確にするための法整備が進んでいます。
「面倒だから」「どうせ売れないから」と、不要な土地を名義変更せずに放置することは許されません。また、令和6年2月には所有者不明土地問題の解決策として「所有者不動産記録証明制度」もスタートしており、ご自身の保有資産を正確に把握することが容易になっています。
預貯金を守りつつ、不要な不動産の負担を解消するためには、相続放棄だけに固執せず、国庫帰属制度や遺産分割協議を組み合わせた総合的な判断が必要です。複雑な財産状況でお悩みの際は、法的リスクを回避するためにも、ぜひ専門家である弁護士や司法書士にご相談ください。
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