相続が発生したとき、遺言の内容によっては、残された財産が特定の相続人に集中し、他の相続人が不利益を被ることがあります。このような場合に法律で守られている最低限の取り分が「遺留分」です。
かつては、遺留分を侵害された相続人が権利を主張すると、不動産の「共有持分」が移転する仕組みになっていました。しかし、2019年(令和元年)の民法改正により、このルールが大きく変わり、現在は「金銭での解決」が原則となっています。
本記事では、この金銭解決ルールの概要と、不動産を所有している相続人が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。
遺留分侵害額請求とは?2019年法改正で何が変わったのか
従来の法律(2019年6月以前)では、遺留分を請求された側は、遺産である不動産などの「持分(所有権の一部)」を渡さなければなりませんでした。
これが原因で、以下のような深刻なトラブルが頻発していました。
- 遺産である自宅の持分が知らない親族との共有になってしまう
- 不動産の権利関係が複雑化し、売却や活用ができなくなる
- 実家に住み続けたい相続人が、家を手放さざるを得なくなる事態に追い込まれる
こうした弊害を解消するため、2019年7月施行の改正民法により、権利の名称が「遺留分減額請求権」から「遺留分侵害額請求権」に変更され、請求方法は「金銭の支払い」へと一本化されました。
不動産を取り戻される心配はなくなったのか
結論から申し上げますと、遺留分権利者から不動産の持分そのものを取り戻される(共有持分にされてしまう)心配はなくなりました。
現在のルールでは、遺留分を侵害された相続人が主張できるのは、あくまで「お金(金銭)」の支払い請求のみです。したがって、被相続人(亡くなった方)から自宅不動産を相続した人は、その不動産をそのまま単独で所有し続けることができます。
自宅を手放したり、見ず知らずの親族と不動産を共有名義にしたりする必要がなくなった点は、不動産を相続する人にとって大きなメリットと言えます。
金銭解決ルールのメリットと注意すべきポイント
不動産を取り戻される心配がなくなった一方で、金銭解決ルールには特有の注意点が存在します。相続をめぐるトラブルを防ぐためにも、メリットとデメリットの両方を正しく理解しておくことが重要です。
金銭解決ルールのメリット
最大のメリットは、遺産の共有化が防げるため、不動産の管理や売却が円滑に行える点です。
- 相続人同士の権利関係がシンプルになる
- 自宅に住み続ける相続人の生活基盤が守られる
- 不動産の処分や活用についての意思決定がスムーズになる
相続人が直面する新たなリスクと注意点
不動産の持分ではなく「現金」で支払う必要があるため、手元に十分な現金がない場合は大きな負担となります。主な注意点は以下の通りです。
- まとまった現金の用意が必要:不動産を多く相続した場合、高額な金銭を支払うために、やむを得ず不動産を売却しなければならないケースがあります。
- 不動産の評価額を巡る争い:金銭を算出するための「不動産の評価額」について、当事者間で意見が対立しやすくなります(固定資産税評価額、路線価、公示地価、鑑定評価などのどの基準を用いるかで金額が大きく変わります)。
- 支払い猶予の制度:金銭の準備が難しい場合、裁判所に対して支払期限の猶予を求めることはできますが、認められるには厳格な要件があります。
また、近年の法改正では、2024年の相続登記義務化や、2026年4月に予定されている住所変更登記の義務化など、不動産をめぐる法規制が厳格化しています。遺産分割や遺留分トラブルを解決した後は、速やかに正確な登記手続きを行うことが不可欠です。
まとめ:金銭解決ルールを踏まえた事前の対策が重要
2019年の法改正による遺留分侵害額請求の金銭解決ルールは、不動産の共有化を防ぐ上で大きな効果を発揮しています。不動産を相続した人が「持分を奪われる」心配はなくなりましたが、今度は「現金の準備」という新たな課題が生じることになりました。
遺言書を作成する側は、特定の相続人に不動産を相続させる場合、他の相続人の遺留分に配慮した現金などの財産バランスを考えておくことがトラブル防止の鍵となります。
もし遺留分をめぐる請求を受けてお悩みの場合や、不動産の評価額の算出、金銭の支払いでお困りの場合は、一人で抱え込まずに相続問題に強い法律事務所へ早めにご相談ください。
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