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個人事業主(飲食店・建設業等)の「屋号口座・営業用店舗」の相続

【この記事の監修者】

井上 正人 弁護士(大阪弁護士会所属 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表)

個人事業主であるご家族が亡くなられた場合、悲しみに浸る間もなく、事業の継続や整理に関するさまざまな手続きに直面します。特に、飲食業や建設業などの個人事業主が残した「屋号口座」の凍結や、「店舗の借地権・賃借権」の承継は、早急に対応しなければ事業の継続が危ぶまれる重要な問題です。

ここでは、個人事業主の死亡に伴う口座凍結への対処法と、店舗や屋号の引き継ぎ方法について、法律の専門家の視点から分かりやすく解説します。

個人事業主の死亡による「屋号口座」の凍結と解除手続き

Q 個人事業主が亡くなった場合、屋号付きの銀行口座はどうなりますか?
A 名義人が死亡した事実を金融機関が知った時点で、屋号口座も個人名義の口座と同様に凍結されます。凍結を解除するには、遺産分割協議を経て、相続人全員の同意のもとで名義変更または解約の手続きを行う必要があります。

屋号口座が凍結される理由

屋号口座(例:「〇〇商店 主 氏名」など)は、形としては事業用の名称がついていますが、法人の口座とは異なり、実質的には被相続人個人名義の財産として扱われます。 そのため、名義人の死亡が金融機関に伝わると、不正な引き出しを防ぐために口座は即座に凍結されます。口座が凍結されると、売上の入金はもちろん、仕入先への支払いや公共料金の引き落としもできなくなり、日々の営業に大きな支障をきたすことになります。

凍結された口座の解除・引き継ぎ手順

凍結された屋号口座の資金を動かしたり、口座を解約したりするためには、以下の手順を踏む必要があります。

  • 金融機関へ死亡の連絡を行い、口座を一時凍結させる
  • 遺言書がある場合は遺言書、ない場合は相続人全員による遺産分割協議を行う
  • 戸籍謄本や印鑑証明書などの必要書類を揃えて金融機関の窓口で相続手続きを行う

事業を引き継ぐ相続人が単独で口座の預金を取得する場合でも、原則として他の相続人全員の同意(実印の押印と印鑑証明書)が必要となるため、事前の家族間での話し合いが不可欠です。

店舗の借地権・賃借権の承継と屋号の扱いの注意点

飲食店や建設業の事務所など、店舗を借りて事業を行っていた場合、借地権や賃借権も相続の対象となります。ここには法的な落とし穴が多いため、慎重な対応が求められます。

賃借権は自動的に相続されるが注意が必要

民法上、被相続人が持っていた店舗の賃借権(借りる権利)は相続人にそのまま引き継がれます。 しかし、ここで問題となるのが「賃貸人(大家さん)との関係」です。多くの店舗賃貸借契約では、無断での名義変更や権利の譲渡を禁止する特約が盛り込まれています。

相続によって借地権・賃借権が移転すること自体は契約違反にあたらないのが原則ですが、事業を円滑に継続するためには、速やかに大家さんや管理会社に連絡を入れ、相続による承継の旨を伝え、必要に応じて新たな賃貸借契約を結ぶなどの協議を行うことが重要です。

「屋号」そのものは相続財産ではない

見落としがちなポイントとして、「屋号」それ自体は法律上の財産権の対象ではありません。 屋号はあくまで事業上の「名称」に過ぎないため、店舗の設備や賃借権、在庫などとセットで引き継ぐ形になります。もし他人がすでに同じ市区町村で同一の屋号を登記している場合などのトラブルを避けるためにも、事業を引き継ぐ際は商標権の有無なども含めて確認することをおすすめします。

最新の法改正と不動産・許認可の承継に関する留意点

個人事業主の相続において、近年特に注意すべきなのが各種の法的義務や許認可の扱いです。

不動産の相続登記の義務化

店舗の土地や建物などを被相続人が所有しており、それを店舗として利用していた場合、2024年4月1日より相続登記が法的な義務となりました。 相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行わない場合、過料の対象となる可能性があります。また、2026年4月からは住所変更登記の義務化も控えているため、店舗併用住宅などの不動産がある場合は、速やかに名義変更手続きを行いましょう。

許認可の引き継ぎについて

飲食店であれば「飲食店営業許可」、建設業であれば「建設業許可」など、事業を行うために取得していた行政の許認可は、原則として相続人が自動的に引き継ぐことはできません。 被相続人の死亡後、そのまま営業を続けると無許可営業とみなされてしまうおそれがあります。多くの許認可では、死亡後一定期間内(例:30日以内など)に「相続による新規の許可申請」や「地位承継の届出」を行うことで、審査期間中の営業継続が認められる特例措置が用意されています。期限を過ぎるとイチから許可を取り直す必要が生じるため、所轄の保健所や自治体の窓口、あるいは専門家に早めに相談することが賢明です。

個人事業主の相続は、一般的な預貯金や不動産の相続に比べ、事業の継続というタイムリミットのある複雑な問題が絡み合います。手続きの漏れを防ぎ、スムーズに事業を引き継ぐためにも、弁護士や司法書士などの専門家への早期の相談を強く推奨します。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人 (いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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