相続人の中のひとりが、被相続人の預金を勝手に引き出して使ってしまった。このようなトラブルに直面したとき、法的手段として検討されるのが「不当利得返還請求訴訟」です。
訴訟を起こすにあたって最も重要な作業の一つが、「請求額の正確な算定」と「利息の計算」です。本記事では、訴状の書き方のポイントと、民法改正に対応した利息の計算方法について、実務的な観点から分かりやすく解説します。
不当利得返還請求訴訟の訴状作成におけるポイント
他の相続人によって勝手に引き出された預貯金を取り戻すための訴訟では、「誰が」「いつ」「いくら」引き出したのかを訴状の請求原因として明確に記載する必要があります。
訴状の「請求の趣旨」では、被告に対して「金〇〇円およびこれに対する平成〇年〇月〇日から支払いまで年3%の割合による金員を支払え」という形式で記載します。曖昧な総額で請求するのではなく、証拠に基づいた緻密な記載が求められます。
請求の根拠となる証拠の集め方
訴状を書き始める前に、必ず金融機関から「取引履歴(口座履歴)」を取り寄せてください。通帳のコピーだけでは、記帳漏れや一連の入出金が見落とされるリスクがあります。
取引履歴をもとに、被相続人の死亡前後における不審な引き出しをすべてピックアップし、リスト化します。このリストが、訴状の「請求原因」を裏付ける重要な資料となります。
引き出し日ごとの不当利得の特定
不当利得返還請求は、法律上の原因なく他人の財産によって利益を受け、そのために他人に損失を与えた場合に発生します。相続財産は相続人全員の共有に属するため、一人が勝手に引き出す行為は他の相続人の権利を侵害する不当利得にあたります。
ここで重要なのは、不当利得の成立時は「一括して全額を引き出した時」ではなく、「それぞれの引き出し日」であるという点です。
複数回にわたる引き出しの処理
例えば、被告が3回に分けて預金を引き出していた場合、以下のように個別に対応関係を整理します。
- 1回目:〇年〇月〇日に50万円の引き出し
- 2回目:〇年〇月〇日に30万円の引き出し
- 3回目:〇年〇月〇日に20万円の引き出し
訴状においては、これらを合算した総額(この場合は100万円)を請求額としますが、利息の起算日を正確に計算するためには、上記のように引き出し日ごとに分解して管理する必要があります。
改正民法に基づく法定利息(年3%)の計算方法
不当利得の返還を請求する場合、元本だけでなく利息を請求することができます。ここで注意すべきなのが、2020年4月1日の民法改正です。
改正前の民法では法定利率は年5%でしたが、改正民法では「年3%」に変更されています。現在提起する訴訟においては、特別な事情がない限り、年3%の割合による利息を請求します。
利息計算の基本公式
利息の計算式は以下の通りです。
請求する利息 = 元本(引き出し額) × 利率(0.03) × 日数 ÷ 365日
引き出し日ごとの利息計算の具体例
前述の通り、引き出し日が異なる場合、利息の発生日(起算日)も引き出し日ごとに異なります。
- 元本50万円をA年B月C日に引きした場合: A年B月C日の翌日から、訴状提出日(または判決の日)までの日数分を計算。
- 元本30万円をX年Y月Z日に引きした場合: X年Y月Z日の翌日から、同様に日数分を計算。
このように、それぞれの元本に対して発生した利息を算出し、最後にすべて合算した金額が、訴訟で請求すべき利息の総額となります。
訴状作成における注意点と実務的アドバイス
訴状の「請求の趣旨」と「請求原因」を正確に作成するためには、専門的な法律知識と緻密な計算作業が必要です。
特に、2024年4月からは相続登記の義務化など相続に関する法制度の厳格化が進んでおり、預金についても正確な遺産分割や不当利得の精算が求められる場面が増えています。誤った金額や利息で訴状を提出してしまうと、裁判の進行が遅れる原因にもなりかねません。
ご自身で計算や訴状の作成を行うことに不安がある場合は、相続問題や不当利得返還請求に精通した弁護士などの専門家に相談し、正確でスムーズな解決を目指すことを強くお勧めいたします。
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