遺産分割や遺留分侵害額請求などの相続トラブルにおいて、「他の相続人が被相続人の財産を勝手に使い込んでいた」という問題は非常に多く発生します。使い込みをした兄弟などの相手方が、裁判や交渉の場で「それは親の生活費や介護費に使った」と反論してくるケースは定番です。
本記事では、相手方がこのような主張をしてきた際、どのように領収書を査定し、不当性を証明していけばよいのかを専門的かつわかりやすく解説します。
相手が提出する領収書の査定方法
被相続人の口座から多額の現金を引き出した相手方が「すべて親の生活費や介護費に消えた」と主張する場合、まず行わべきなのは相手が提出した領収書やレシートの徹底的な査定(精査)です。
相手は自分の正当性を証明するために大量の領収書を出してくることがありますが、法的な視点でチェックすると多くの矛盾点が見つかることが少なくありません。
領収書の日付と被相続人の生存期間の照合
提出された領収書の日付が、被相続人の入院期間や施設入所期間、あるいはお亡くなりになられた日以降のものになっていないかを確認します。すでに亡くなっている時期の買い物や、寝たきりで外出できない状態であるにもかかわらず高額な衣料品が購入されている場合などは、私的流用の有力な証拠となります。
支出の性質と金額の妥当性
スーパーでの食料品や日用品の領収書であっても、被相続人の一人暮らしの生活費として常軌を逸した金額になっていないかを精査します。また、明らかに相手方自身の家族の生活費や嗜好品が含まれている形跡がないかも細かくチェックする必要があります。
親の実際の生活費を超える使途不明分の不当性
「親の生活費や介護費に使った」という反論に対して最も効果的な反証は、被相続人の実際の生活費や介護費の総額を算出し、相手の引き出し額と比較することです。
裁判実務においても、単に「生活費に使った」という抽象的な主張は認められません。具体的にどのような費用にいくら使ったのかを立証する責任は、お金を引き出した側にあります。
年金収入やこれまでの支出実績との比較
被相続人が生前に受給していた年金額や、それまで預貯金から月々どの程度を引き出して生活していたかという「家計のベースライン」を客観的な資料(過去の通帳履歴など)から割り出します。 通常、施設に入所している期間であれば生活費はむしろ減少する傾向にあり、突発的な医療費や介護費用が発生していない限り、毎月数十万円もの現金が必要になることは不自然です。
「使途不明金」としての返還請求
相手が提出した領収書の合計額を差し引いてもなお説明がつかない差額については、法律上の原因なく被相続人の財産を費消したもの(使途不明金)として、不当利得返還請求や遺産分割における持ち戻しの対象として主張していくことになります。
最新の法改正と不動産・財産調査への影響
相続財産の調査や使途不明金の追及においては、近年の法改正に伴う制度の変化も頭に入れておく必要があります。
相続登記の義務化(2024年4月施行)や住所変更登記の義務化(2026年4月施行)など、不動産に関するルールが厳格化されているのと同様に、金銭トラブルにおいてもデジタル社会に対応した証拠収集が重要になっています。
通帳開示や金融機関の調査
被相続人の生前の正確な資産状況や、相手方による引き出しのタイミングを特定するためには、弁護士会照会や訴訟上の文書提出命令などの法的手続を活用して、金融機関から過去の取引履歴を取り寄せること不可欠です。 記憶や推測ではなく、客観的な「金の流れ」を時系列で整理することが、相手の虚偽の主張を打ち崩す最大のカギとなります。
まとめ
兄弟などの相続人が「親の生活費・介護費に使った」と主張してきた場合、感情的に反発するのではなく、客観的な証拠(通帳の履歴や領収書)を論理的に分析・査定することが求められます。
相手の主張の矛盾点を突き、実際の生活費を大きく超える使途不明分を明らかにすることは、個人で行うには精神的にも技術的にも大きな負担がかかります。 泣き寝入りをせず、相続トラブルの解決実績が豊富な弁護士などの専門家に早い段階で相談し、適正な遺産分割を実現することをおすすめします。
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