遺産分割や遺留分侵害額請求などの相続トラブルにおいて、特定の相続人から「その財産は親から生前贈与として生前に貰ったものだから、遺産分割の対象にはならない」と主張されるケースは少なくありません。
もし相手の主張通りに生前贈与が認められてしまうと、他の相続人が受け取れる遺産の取り分が大幅に減ってしまいます。そのため、相手の主張する「贈与契約」の有効性そのものを法的に否定していくことが極めて重要になります。
この記事では、被告(相手方)が「生前贈与で貰った」と主張した際に、どのようにその贈与契約を否定・反論すべきか、具体的なポイントをわかりやすく解説します。
贈与契約の存在を覆すための3つの立証ポイント
民法上、贈与は「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾すること」によって効力が生じます(民法第549条)。つまり、贈与契約が有効に成立していたと言えるためには、贈与者(親)と受贈者(被告)の双方に法的な「契約の意思」があったことが必要です。
被告の主張を崩すためには、主に以下の3つの観点から証拠を集め、契約の成立を否定していきます。
1. 親に「意思能力」がなかったことの証明
生前贈与が行われたとされる時期に、被相続人(親)が認知症の進行などにより遺言や契約の意味を理解・判断できるだけの「意思能力(判断能力)」を失っていたことを証明する方法です。
意思能力がない状態でした契約は無効となります。以下の資料が有力な証拠になります。
- 介護保険の認定調査票や主治医のカルテ(当時の認知症の程度がわかるもの)
- 施設入所の際の面接記録や看護記録
- 病院の診断書やデイサービスの利用記録
2. 「贈与契約書」が存在しないことの指摘
多額の不動産や預貯金の生前贈与があるにもかかわらず、客観的な証拠である「贈与契約書」が作成されていない事実を突くことは非常に有効です。
口頭での贈与も法律上は有効ですが、後々のトラブルを防ぐため、重要財産の移動には通常、契約書が作成されます。「契約書が存在しないこと」自体が、その贈与が本当に親の真意に基づいた正式なものではなかった強力な状況証拠となります。
3. 契約書に親の「自署・押印」がないことの証明
仮に形式的な贈与契約書が存在していたとしても、それが本当に親自身によって作成されたものかを確認する必要があります。
もし契約書に記載されている親の署名が、被告の代筆であったり、親が身体の自由を奪われている時期に無理やり書かされたりしたものであれば、契約は無効です。
- 筆跡鑑定を行い、生前の自筆文字や遺言書の筆跡と比較する
- 契約書の日付と、親が入院していた時期や寝たきりであった時期が矛盾していないかを検証する
- 実印ではなく、勝手に持ち出された認印が使われていないかを確認する
証拠集めと法的主張の進め方
生前贈与の不存在を主張するためには、感覚的な反論ではなく、客観的な証拠に基づいた法的な構成が不可欠です。
特に、親の預金口座から被告の口座へ勝手に多額のお金が移動していた場合(いわゆる「名義預金」や「勝手引き出し」のケース)、被告側は「生前贈与だ」と主張しがちですが、お金の移動があったことと、有効な贈与契約が存在したことは全く別問題です。
裁判や遺産分割調停では、以下のようなステップで立証活動を進めます。
- 預金口座の取引履歴(金融機関からの取り寄せ)の分析:お金が移動した時期と親の健康状態を照らし合わせる
- カルテや介護記録の保全(弁護士会照会や文書送付嘱託など):当時の意思能力を客観的に裏付ける
- 陳述書の作成:他の相続人の視点から、親が生前「そんなつもりはなかった」「お金を貸しただけだ」と言っていたなどの事実をまとめる
被告の主張にお困りの場合は弁護士にご相談を
相続人の一人が「生前贈与を受けた」と主張し始めると、感情的な対立も絡み、当事者同士での話し合いによる解決は極めて難しくなります。
「親はそんなことをするはずがない」「契約書を見たことがない」といった納得がいかない状況であっても、それを法的に認めさせるためには、医療記録の解析や過去の裁判例に基づいた緻密な反論が必要です。
泣き寝入りしてご自身の正当な相続分を失ってしまわないよう、生前贈与の主張でお困りの際は、できるだけ早い段階で相続問題に強い法律事務所へご相談ください。
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