認知症の親の通帳管理と「施設・ケアマネジャー」への聞き取りの重要性
親が認知症を発症した際、施設への入所や介護サービスの利用に伴い、その金銭管理を施設スタッフやケアマネジャーに委ねるケースは少なくありません。しかし、いざ相続が発生したとき、「同居していた他の相続人が親の預貯金を勝手に使い込んでいたのではないか」という疑念が生じ、大きなトラブルに発展することがあります。
このような「遺産隠し」や「使い込み」を疑う場合、感覚的な主張だけでは裁判で勝訴することはできません。客観的な証拠を集めるために欠かせないのが、施設やケアマネジャーへの聞き取り調査と、彼らが保有する記録の保全です。
施設・ケアマネジャーが保有する重要な「証拠」とは
認知症の親が入居していた老人ホームや介護施設、あるいは担当のケアマネジャーは、日々の生活を支える過程で金銭のやり取りに関する記録を残しています。これらは、後々の法的紛争において極めて強力な武器となります。
施設での金銭管理台帳の法的価値
多くの有料老人ホームや介護老人保健施設では、入居者の日常的な小口現金(おやつ代、理美容代など)を管理するために金銭管理台帳を作成しています。
- いつ、誰が、いくら親に渡したのか
- 何にいくら使ったのかの領収書が添付されているか
- 残高の推移に不自然な点はないか
これらの台帳は、施設側が厳格に管理している公的な信頼性の高い資料です。もし特定の相続人が頻繁に高額な現金を引き出していたり、台帳の記録と実際の預貯金の出金履歴に大きな乖離があったりする場合、それは使い込みの有力な裁判証拠となります。
面会時の現金手渡しの記録とメモ
施設職員やケアマネジャーへの聞き取りでは、金銭管理台帳だけでなく、日常の面会の様子や現金のやり取りについても重要な情報を得ることができます。
- どの相続人が頻繁に面会に来ていたか
- 面会の際に、現金や通帳の持ち出しを要求していなかったか
- 親自身の金銭管理能力がどの程度失われていたか
ケアマネジャーは、利用者の心身の状態や家族の関わり方を客観的に見ています。面会時の状況についてケアマネジャーから詳細な聞き取りを行い、陳述書などの形に残しておくことは、相続裁判において親の意思能力の有無や使い込みの事実を立証する上で極めて有効です。
施設やケアマネジャーから協力を得るためのポイント
施設やケアマネジャーは、中立的な立場を守りたいという理由から、相続人の一方的な調査協力要請に対して慎重になることがあります。スムーズに記録を開示してもらい、証拠化するためには適切なアプローチが必要です。
個人情報の壁と弁護士を通じた照会
故人の預貯金履歴や施設の記録は個人情報に該当するため、相続人の一人格として単に「見せてほしい」と言っても、施設側が拒否するケースがあります。
そのため、遺産分割協議や遺産分割調停、あるいは訴訟の段階において、弁護士法に基づく照会制度(23条照会)や、裁判所の文書提出命令・調査嘱託を利用するのが確実です。法的な手続きを踏むことで、施設側も公式に記録を開示しやすくなります。
記録の散逸を防ぐための迅速な対応
近年の法改正に伴い、相続手続きのデジタル化や各種登記の義務化(2024年の相続登記義務化や2026年4月の住所変更登記義務化など)が進む中、相続における財産調査の迅速化が求められています。
施設側の保存期間を経過してしまうと、必要な金銭管理台帳が廃棄されてしまうおそれがあります。相続が開始したら、あるいは使い込みの疑いが浮上した段階で、一刻も早く弁護士に相談し、施設に対する証拠保全や聞き取りの準備を進めることが肝要です。
まとめ
認知症の親の通帳管理を巡るトラブルでは、「誰が、どのように財産を動かしたか」を立証する客観的証拠が勝敗を分けます。施設での金銭管理台帳やケアマネジャーへの聞き取りによる証拠化は、個人の力だけでは対応が難しい場面も多いため、専門知識を持つ弁護士のサポートを受けながら、確実に証拠を収集・保全することをおすすめします。
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