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共同相続人が複数いる場合の使途不明金訴訟:「自分の不可分債権」での請求

【この記事の監修者】

井上 正人 弁護士(大阪弁護士会所属 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表)

使途不明金訴訟における「自分の法定相続分のみの請求」とは

Q 共同相続人が複数いる場合、使途不明金を一人で全額請求できますか?
A 判例により、故人の預金口座から無断で引き出された金銭に関する不当利得返還請求権などの金銭債権は、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割されます。そのため、他の相続人と共同せず、自分の法定相続分(例:3分の1など)のみを単独で被告へ請求することが可能です。

被相続人(亡くなった方)の生前に、他の相続人や第三者が勝手に預金を引き出していたことが発覚した場合、残された相続人としては納得がいかないものです。こうした「使途不明金」を取り戻すための訴訟において、全員が原告として一致団結しなければならないのかという疑問が生じます。

実務上、金銭債権は原則として「不可分債権(または可分債権)」として扱われます。そのため、必ずしも共同相続人全員で訴訟を提起する必要はなく、自分の法定相続分に相当する部分だけを切り取って単独で請求するという手法が認められています。

この手法を用いるメリットや、実際の裁判実務における注意点について詳しく解説します。

使途不明金が生じた場合の法的性質と分割の仕組み

被相続人の口座から不正に引き出された金銭をめぐる法的トラブルでは、その金銭の返還を求める権利(不当利得返還請求権や損害賠償請求権)がどのような性質を持つかが重要となります。

金銭債権は「相続により当然分割」される

最高裁判所の判例により、可分債権(金銭債権)は、相続が開始した瞬間から相続開始時の法定相続分に応じて各相続人に当然分割されると解釈されています。

たとえば、相続人が子ども3人(長男・次男・長女)で、法定相続分がそれぞれ3分の1ずつであるケースを想定します。長男が被相続人の口座から生前に500万円を無断で引き出していた場合、他の相続人である次男や長女は、この使途不明金について自分の法定相続分である「3分の1(約166万円)」をそれぞれ単独で請求できることになります。

全員で訴える必要がないメリット

使途不明金訴訟を全員で提起しようとすると、以下のようなハードルが生じます。

  • 相続人の中に連絡が取れない人や、訴訟に協力的ではない人がいる
  • 相続人同士の関係が悪化しており、意見の調整がつかない

このような場合でも、自分の持ち分だけに限定して訴訟を起こすことができれば、他の相続人の協力を得られない状況であっても自らの権利を守るための法的手段を講じることができます

「自分の不可分債権」として請求する際の具体的な手順

自己の法定相続分のみを被告へ請求する訴訟を進めるにあたっては、いくつかのステップと法的な立証が不可欠です。

1. 使途不明金の存在と引き出しの立証

訴訟では、原告側が以下の事実を客観的な証拠に基づいて証明しなければなりません。

  • 被相続人の口座から、生前に(あるいは相続開始直後に)不審な出金があったこと
  • その出金が被相続人の意思に基づくものではなく、被告(使った本人など)によって勝手に行われたものであること

預貯金の取引履歴(通帳のコピーや金融機関からの取引経過開示資料)を取り寄せ、どの時期に・いくら引き出されたのかを明確にする必要があります。近年の法改正に伴う制度(所有不動産記録証明制度など不動産関連の整備が進む一方、預貯金についても調査の手法は洗練されています)を活用し、遺産全体の全容を正確に把握することが肝要です。

2. 訴額と管轄裁判所の選定

単独で請求する場合の訴額(請求金額)は、あくまで「自分が主張する法定相続分相当額」となります。

  • 請求総額(使途不明金全体):300万円
  • 自身の法定相続分:3分の1
  • 訴額:100万円

この場合、訴額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が管轄となります。ご自身の請求する金額に応じた裁判所を選択することになります。

単独請求の限界と実務上の注意点

「自分の法定相続分だけを請求すれば簡単だ」と思われがちですが、実務上はいくつかのリスクやデメリットも存在します。専門的な法的判断を要するため、事前に弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

他の相続人への波及効果はない

あなたが単独で勝訴し、被告から自分の法定相続分(例:3分の1)を回収できたとしても、それはあくまで「あなたの分」が解決したにすぎません。他の相続人が自分の分を請求していない場合、残りの3分の2について自動的に回収されるわけではない点に注意が必要です。他の相続人は、それぞれが個別に請求するか、遺産分割協議の中で精算を図る必要があります。

相続放棄との関係性

もし、使途不明金の存在を理由に「遺産をくまなく調査してすべて回収したい」と考えている場合、相続放棄をしてしまうとそもそも相続人としての地位を失うため、この請求はできなくなります。また、使途不明金を発見した後に自己の法定相続分を請求して受領してしまうと、「単純承認」をしたとみなされ、後から負債(借金)などが発覚しても相続放棄ができなくなるリスクがあるため、慎重な判断が求められます。

共同相続人が複数いる場合の使途不明金訴訟は、自分の法定相続分を単独で切り取って請求できるという強力な武器がある一方で、証拠集めや相続法全体の理解が不可欠です。少しでも不安がある場合は、相続トラブルに強い法律事務所へご相談ください。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人 (いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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