親が亡くなった後、遺品整理や相続の手続きを進める中で、同居していたきょうだいが生前に親の預金を勝手に引き出していたことが発覚するトラブルは少なくありません。「介護費用に使った」「親から頼まれた」と言われても、他の相続人としては納得がいかないケースがほとんどでしょう。
こうした不正な引き出し(使い込み)が疑われる場合、感情的に追及するのではなく、客観的な証拠を集めるための初期調査を冷静に行うことが重要です。この記事では、銀行での過去の取引履歴の開示請求から、ATMの利用状況と照合する具体的な手順までをわかりやすく解説します。
同居のきょうだいが親の口座から勝手にお金を引き出していたら?
親の預金口座は相続財産の一部であり、特定の相続人が勝手に使い込むことは認められません。しかし、銀行は口座名義人が亡くなると口座を凍結しますが、死亡前の引き出しについては、きょうだいが親の委任を受けていた(あるいはキャッシュカードと暗証番号を預かっていた)と主張することが多々あります。
そのため、相手の言い分を崩すためには、客観的な証拠に基づく緻密な初期調査が不可欠となります。
銀行での過去10年分の取引履歴開示請求
使い込みの有無を調査する第一歩は、金融機関に対して過去の取引履歴(通帳のコピーや入出金明細)の開示請求を行うことです。
開示請求に必要な書類と手続き
亡くなった親の口座の取引履歴を取り寄せるには、相続人の一人または遺産分割協議の当事者として請求手続きを行います。一般的に以下の書類が必要となります。
- 請求者の戸籍謄本(故人との相続関係を証明するもの)
- 故人の死亡が記載された戸籍(除籍)謄本
- 請求者の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 金融機関所定の請求書
なお、2020年4月の民法改正により、預貯金の払い戻し制度が変わり、遺産分割前でも一定の範囲で預金を引き出せるようになりましたが、過去の取引履歴の取得には相続人全員の同意は原則不要であり、単独でも請求が可能です(金融機関の窓口で確認が必要です)。
期間はなぜ「過去10年分」が必要なのか
消滅時効の観点や、使い込みが長期間にわたって行われている可能性を考慮し、過去10年分の取引履歴を取り寄せるのが鉄則です。民法上の不当利得返還請求権や損害賠償請求権の時効(権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年)を意識し、できる限り古い分まで遡って確認しましょう。
ATM引き出し位置・時間帯の照合による立証手順
取引履歴を手に入れたら、次にデータ分析を行います。特に、窓口ではなくATMでの高額な引き出しや頻繁な出金に注目します。
取引履歴と生活実態のギャップを見つける
通帳や取引履歴を見るだけでは、「親自身が生活費として引き出したのではないか」と反論される余地が残ります。そこで重要になるのが、ATMの引き出し位置(店舗・コンビニ)と時間帯の照合です。
- 親の健康状態や行動範囲と一致しているか: 当時、親が寝たきりであったり、認知症で一人での外出が困難だったりした時期に、自宅から離れたATMや夜間・早朝に引き出しが行われていないかをチェックします。
- 同居きょうだいの生活圏内と合致するか: 引き出しが行われたATMの場所や時間帯が、その同居きょうだいの通勤経路や勤務時間、または行動範囲と一致している場合、実際にATMを操作して現金を引き出したのは同居のきょうだいであるという強力な間接証拠になります。
証拠の整理と今後のアプローチ
取引履歴、ATMの利用日時・場所、そして当時の親の介護記録や医療記録(病院のカルテや介護日誌など)を時系列で整理し、「親自身が引き出すことが物理的に不可能であった時期」の出金データを明確に抽出します。
こうした客観的な証拠を揃えることで、単なる「疑い」から「確証」へと変わり、遺産分割協議やその後の法的手続き(不当利得返還請求訴訟など)を有利に進めることができます。
使い込みの問題は親族間の感情的な対立を生みやすく、個人での調査には限界があります。納得のいく解決を目指すためにも、初期調査の段階から相続問題に強い弁護士などの専門家に相談し、適切なサポートを受けることを強くおすすめします。
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