遺言書を作成した後に、ご本人の認知症の症状が進み、家庭裁判所から成年後見開始の審判が下りたというケースがあります。遺言書を作成した数日後に後見開始の審判が下りていた場合、その遺言書は有効なのでしょうか、それとも無効になってしまうのでしょうか。
遺言の有効性は、形式的な作成日だけでなく、遺言を作成した「その瞬間に遺言能力があったかどうか」という実質的な判断が極めて重要になります。ここでは、後見開始の審判と遺言の効力の関係について、法律の専門的な視点からわかりやすく解説します。
成年後見開始の審判と遺言の効力に関するQ&A
遺言有効性の鍵を握る「遺言能力」の考え方
民法では、遺言を作成する時点で自分の行為の結果を弁識するだけの能力、すなわち遺言能力が備わっていなければならないと定めています。この遺言能力がない状態で書かれた遺言は、たとえ形式や要件を満たしていても無効となります。
実務上、遺言能力の有無は、医師の診断書や当時のカルテ、家族の証言などを総合して判断されます。特に、後見開始の審判の申し立てには数ヶ月の準備期間を要するため、遺言作成日と審判の日が数日違いという近接したケースでは、遺言作成の時点ですでに認知症などの精神上の障害によって判断能力が著しく低下していたと推認されやすくなります。
成年後見の開始=直ちに遺言無効ではないが…
法律上、成年後見開始の審判を受けた者であっても、一時的に判断能力が回復している「事理を弁識する能力を一時回復した時」であれば、医師2名以上の立ち会いのもとで有効に遺言を作成できる例外規定(民法第973条)が存在します。
しかし、これは厳格な要件を満たした場合の話であり、一般的な自筆証書遺言などを数日違いで作成していた場合、この例外に該当することは極めて稀です。したがって、事後的に後見開始の審判が下りた場合、その遺言書をめぐって相続人同士で深刻な法的紛争に発展するケースが後を絶ちません。
相続トラブルを防ぐために行うべき対策
遺言書の有効性をめぐって相続人間の争い(遺言無効確認訴訟など)が発生した場合、裁判所は遺言作成当時のカルテや看護記録、作成時の様子を詳しく調査します。このようなリスクを回避するためには、以下の点に留意する必要があります。
- 生前の早い段階、つまり判断能力が十分にある健康なうちに遺言書を作成しておくこと
- 判断能力に少しでも不安がある場合は、公証役場で公正証書遺言を作成し、公証人に判断能力を確認してもらうこと
- 遺言作成と同時期に医師の診察を受け、「遺言能力に問題なし」との診断書や意見書を取得しておくこと
近年では、不動産の相続登記義務化や各種法改正に伴い、確実な遺言書の作成がより一層重要視されています。しかし、判断能力の低下と遺言作成のタイミングが重なってしまうと、故人の真意が形にできなかったり、残された家族が泥沼の紛争に巻き込まれたりする原因となります。
後見開始の審判と遺言作成日の近接による無効リスクでお悩みの場合や、すでにトラブルに発展している場合は、個別の事情に応じた正確な法的判断が不可欠です。泣き寝入りや誤った判断をする前に、相続問題や遺言の有効性に詳しい弁護士などの専門家に早めにご相談されることを強くお勧めします。
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