共同相続人が一度行った相続放棄は勝手に取り消せる?
遺産相続が発生した際、特定の相続人が「自分は遺産を受け取らない」として家庭裁判所に相続放棄を申し立てることがあります。しかし、後になって「やはり遺産を相続したい」「他の相続人に騙されていた」などの理由から、相続放棄を取り消したいと考えるケースは少なくありません。
結論から申し上げますと、一度家庭裁判所に受理された相続放棄は、原則として撤回することができません。ただし、例外的に法律上の理由がある場合には「取消し」が認められることがあります。
この記事では、相続放棄の撤回ができない理由や、例外的に取消しが認められる具体的なケース、その手続きについて分かりやすく解説します。
相続放棄は原則として「撤回」できない(民法919条1項)
日本の民法第919条1項には、「相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間(※3ヶ月の熟慮期間)内であっても、撤回することができない」と明確に定められています。
たとえ「やっぱり気が変わった」「相続放棄の期限である3ヶ月以内だから大丈夫だろう」と思っても、家庭裁判所に相続放棄の申述が受理された後は、本人の意思だけで勝手に元に戻すことはできません。
撤回が認められない主な理由は以下の2点です。
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他の共同相続人や債権者の混乱を防ぐため 相続放棄が受理されると、その相続人は「初めから相続人でなかった」ものとして扱われます。これにより、他の共同相続人の相続分が増えたり、次順位の親族が新たに相続人になったりします。もし一度行った放棄を簡単に撤回できるとすれば、誰が相続人であるかが二転三転し、遺産分割協議や債務の弁済手続きが極めて不安定になってしまいます。
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法的安定性を確保するため 2024年4月からは「相続登記の義務化」がスタートしており、誰が不動産を相続したかを早期に確定させることが社会的に強く求められています。相続放棄の撤回を安易に認めると、不動産の権利関係が複雑化し、登記手続きの遅延や混乱を招く原因となります。
例外的に相続放棄の「取消し」が認められるケース
原則として撤回できない相続放棄ですが、意思表示に重大な瑕疵(法律上の不備や問題)があった場合には、例外的に「取消し」を求めることができます(民法919条2項)。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
1. 詐欺や脅迫によって相続放棄をさせられた場合
他の共同相続人から「亡くなった被相続人には多額の借金しかないから、放棄しなければ大変なことになる」と嘘をつかれて騙された場合(詐欺)や、「相続放棄をしなければ容赦しない」などと脅されて無理やり手続きをさせられた場合(脅迫)です。
2. 重要な勘違い(錯誤)があった場合
相続放棄をする前提となる事実について、重大な誤解があった場合です。ただし、単なる「遺産が思ったより多かった」という程度の勘違いでは認められにくく、意思表示の根幹に関わるレベルの錯誤である必要があります。
3. 制限行為能力者が単独で行った場合
未成年者や被成年後見人などの制限行為能力者が、法定代理人(親権者や成年後見人)の同意を得ずに単独で相続放棄の手続きを行った場合です。この場合は、法定代理人や本人が後から取り消すことができます。
相続放棄を取り消すための手続きと「期限」
相続放棄の取消しを行うには、単に「取り消します」と宣言するだけでは足りず、家庭裁判所に対して「相続放棄取消申述書」を提出する必要があります。
また、取消しには厳格な期限(消滅時効)が設けられているため注意が必要です(民法919条3項)。
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追認をすることができる時から6ヶ月間 「追認をすることができる時」とは、例えば詐欺に気づいた時点や、脅迫状態から脱して自由な意思決定ができるようになった時点を指します。その時点から6ヶ月以内に手続きを行わなければ、取消権は時効によって消滅します。
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相続放棄の時から5年間 詐欺や脅迫に気づかないままであっても、相続放棄の手続きが受理されたときから5年が経過した場合は、いかなる理由があっても取り消すことができなくなります。
手続きの際は、詐欺や脅迫があったことを客観的に証明する証拠(LINEの履歴、音声データ、書面など)を家庭裁判所に提出しなければならず、ハードルは非常に高いと言えます。
そもそも相続放棄が「無効」となるケース
「取消し」とは別に、手続き自体が最初から効力を持たない「無効」と判断されるケースもあります。
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本人の同意なく勝手に書類が偽造された場合 他の共同相続人が、本人の実印や身分証明書を勝手に持ち出して相続放棄の手続きを勝手に進めて受理された場合、その相続放棄は当然に無効です。
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意思能力がない状態で行われた場合 認知症などが高度に進行しており、相続放棄の意味を全く理解できない状態の人が手続きを行った場合、その意思表示は無効となります。
無効を主張する場合は、家庭裁判所に対して「相続放棄無効確認の調停」や、地方裁判所に対して「訴訟(裁判)」を提起して争うことになります。
まとめ:トラブルを防ぐために弁護士へ相談を
共同相続人の1人が「勝手に相続放棄を取り消す」ことは、原則として不可能です。しかし、詐欺や脅迫といった不当な手段によって放棄を強いられた場合には、法的な手段を用いて救済される道が残されています。
ただし、相続放棄の取消しや無効の主張は、専門的な法律知識と客観的な証拠が不可欠であり、個人で進めるのは極めて困難です。また、2024年4月の相続登記義務化に伴い、相続手続き全般において迅速かつ正確な対応が求められるようになっています。
もし「無理やり相続放棄をさせられて困っている」「他の相続人の勝手な行動に対処したい」とお悩みの場合は、手遅れになる前に、相続問題に強い弁護士へ速やかに相談することをお勧めします。
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