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親が生きているうちに「相続放棄の約束」を兄弟間で交わした書類は有効ですか?

【この記事の監修者】

井上 正人 弁護士(大阪弁護士会所属 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表)

親が生きているうちの「相続放棄の約束」は法律上無効です

Q 親が生きているうちに兄弟間で「相続放棄する」と書面で約束した場合、その書類は有効ですか?
A いいえ、法律上完全に無効です。相続は親の死亡によって初めて開始するため、生前に相続権を放棄することはできません。死亡後に家庭裁判所で正しい手続きを行う必要があります。

親が健在のうちに「家業を継ぐ長男以外の兄弟は相続を放棄する」「生前贈与を受けた代わりに将来の相続権を放棄する」といった内容の念書や覚書を作成するケースは少なくありません。

しかし、親が生きているうちに交わされた相続放棄の約束や念書は、法律上いかなる効力も持ちません。

どれほど厳密に書面を作成し、実印を押印して印鑑証明書を添付していたとしても、無効であるという事実は変わりません。

なぜ生前の相続放棄は認められないのか?

日本の民法において、相続は「被相続人(親など)の死亡」によって初めて開始すると定められています(民法882条)。

親が生きている間は、子供にはまだ「相続権」そのものが生じていません。存在しない権利を事前放棄することは法律上不可能なのです。

また、生前の相続放棄を無条件に認めてしまうと、特定の相続人が他の相続人から不当な圧力を受けて放棄を強制されるリスクが生じます。そのため、民法では生前の相続放棄の約束を一切認めていません。

兄弟間の合意や親の指示があっても無効

生前の相続放棄が無効となる具体的なパターンについて解説します。

兄弟間で「長男が全財産を継ぐ」と合意した場合

「実家や家業を守るために、長男以外の兄弟は財産を辞退する」という合意を家族間で交わすことがあります。

しかし、親の死後に他の兄弟が「あの書類は無効だから自分も相続したい」と主張した場合、生前の念書を根拠に拒否することはできません。

死亡後に改めて全員で「遺産分割協議」を行うか、各自が家庭裁判所で手続きをする必要があります。

親から強制されて誓約書を書かされた場合

親から「お前には生前贈与をしたから相続権を放棄しろ」と強要されて書かされた覚書も、当然ながら無効です。

親であっても、子供の将来の相続権を強制的になくすことはできません。

親の死亡後に正しく相続放棄をするための手続き

将来、親が亡くなったあとに本当に相続放棄をしたい場合は、法律で定められた正規の手続きを行う必要があります。

1. 家庭裁判所へ「相続放棄の申述」を行う

相続放棄は、親族間での話し合いや念書の作成だけでは完了しません。

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、「相続放棄の申述書」や戸籍謄本などの必要書類を提出する必要があります。

2. 「3か月以内」の熟慮期間に注意する

相続放棄の手続きができる期間は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」(熟慮期間)と決められています。

生前に「自分は放棄する」と思い込んで放置していると、知らず知らずのうちに3か月の期限が過ぎ、借金などの負の遺産も含めてすべて相続してしまう(単純承認)可能性があるため注意が必要です。

2024年4月開始の「相続登記義務化」との関係

2024年4月1日から不動産の相続登記が義務化されました。不動産を相続したことを知った日から3年以内に申請を行わないと、過料(ペナルティ)が科される可能性があります。

もし家庭裁判所で正式な相続放棄が受理されれば、その人は「最初から相続人ではなかった」ことになります。そのため、不動産の相続登記義務や申請義務を負うこともなくなります。

相続トラブルを避けるためにも、生前の口約束ではなく死後の正式な手続きを行うことが極めて重要です。

生前に特定の人へ財産を残したい場合の正しい対策

生前に相続放棄をさせることはできませんが、「特定の子供に多く財産を残したい」「実家を長男に引き継がせたい」といった希望がある場合は、別の法的アプローチを検討する必要があります。

対策1:遺言書を作成してもらう(公正証書遺言が推奨)

親が存命のうちに遺言書を作成してもらうことが最も有効な対策です。「長男にすべての不動産を相続させる」といった遺言書があれば、原則としてその通りの遺産分割が行われます。

ただし、他の子供には法律上最低限保障された取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」が存在します。遺言書があっても遺留分を主張される可能性があるため、遺言書の文面や財産配分には十分な配慮が必要です。

対策2:「遺留分の生前放棄」の手続きをとる

「相続放棄」は生前にできませんが、「遺留分の放棄」であれば生前に行うことが可能です。

ただし、これには厳格な条件があり、放棄する本人が自発的に家庭裁判所へ申し立てを行い、許可を得る必要があります。親からの強要による放棄や、見返り(十分な生前贈与など)がない場合の放棄は家庭裁判所に認められません。

まとめ:生前の書類に惑わされず専門家へご相談を

親が生きているうちの兄弟間の「相続放棄の約束」や「念書」は、法律上一切の効力がありません。

親が亡くなったあとに無用な親族トラブルへ発展させないためにも、生前のうちに遺言書の作成や遺留分の検討など、適切な法的対策を講じることが大切です。

相続に関する不安や、生前の権利調整、死後の相続放棄手続きについては、できるだけ早い段階で相続問題に詳しい弁護士や司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人 (いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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