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「審判前の保全処分」:遺産である不動産の売却や預金引き出しを止める命令

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、遺産分割・遺留分侵害額請求・相続放棄・不動産登記義務化等の相続実務経験に基づき、最新の民法および裁判所実務に沿ってわかりやすく解説しています。

相続の手続きを進める中で、他の相続人が故人の財産を勝手に処分しようとしてトラブルになるケースは少なくありません。遺産分割の話し合いがつかないまま、相手が勝手に不動産を売却したり預金を引き出したりするのを防ぐための法的な手段が「審判前の保全処分」です。

遺産分割協議や審判の決着がつくまでには長い時間がかかるため、その間に財産が失われてしまうリスクを防ぐためには、この保全処分の仕組みを正しく理解しておくことが重要です。

「審判前の保全処分」とはどのような手続きですか?

Q 遺産分割の話し合いの最中に他の相続人が勝手に不動産を売却したり預金を引き出したりするのを防ぐ方法はありますか?
A 【審判前の保全処分の概要】遺産分割調停や審判の決着がつく前に、他の相続人が勝手に不動産の売却や預貯金の引き出し、単独名義への相続登記を行うのを防ぐため、家庭裁判所に一時的な禁止命令を出してもらう緊急避難的な法的手段(家事事件手続法第205条)です。
【注意点と弁護士活用のメリット】保全処分を利用するには財産隠滅の緊急性や必要性を論理的に立証する必要があるため、散逸リスクを感じたら迅速に相続問題に強い弁護士へ相談し、適切な申し立てを行うことが重要です。

遺産分割調停や審判の申し立てを行っている最中であっても、法律上の所有権を持つ相続人が単独で不動産の登記を変更したり、預貯金を引き出したりすることは理論上可能です。しかし、それをそのまま放置してしまうと、いざ分割の結論が出たときには「遺産がすでに散逸していて何も残っていない」という事態になりかねません。

このような不都合を防ぎ、裁判所の最終的な判断の実効性を確保するための緊急避難的な措置が「審判前の保全処分(家事事件手続法第205条)」です。

保全処分が利用される具体的なケース

審判前の保全処分は、主に以下のような状況で申し立てられます。

  • 他の相続人が、遺産である土地や建物を勝手に第三者へ売却しようとしている
  • 特定の相続人が、被相続人の預貯金を勝手に出金して使い込んでしまう恐れがある
  • 遺産である不動産に対して、特定の相続人が勝手に自身の単独名義で相続登記を行おうとしている

このように、財産の現状が変更されてしまう切迫した危険がある場合にのみ、裁判所に対して処分の発令を求めることができます。

審判前の保全処分の主な種類

家事事件手続法において、審判前の保全処分にはいくつかの種類が用意されています。ご自身の直面しているトラブルに応じて、適切な処分を選択する必要があります。

1. 財産の処分禁止仮処分

遺産に含まれる不動産や動産について、売却、贈与、抵当権の設定などの処分行為を一切禁止する命令です。この処分が出されると、たとえ共有持分であっても勝手に第三者へ名義を変えることができなくなります。

2. 占有移転禁止の仮処分

不動産の現在の「占有(管理・使用している状態)」をそのまま固定し、第三者への引き渡しを禁止する処分です。裁判の途中で不動産の占有者が変わってしまうと、相手が変わるたびに裁判をやり直さなければならなくなるため、それを防ぐ目的で利用されます。

3. その他の必要な保全処分

上記のほかにも、遺産の管理に関する処分や、特定の相続人に対して財産の保全を命ずるなど、具体的な事情に応じた柔軟な処分が認められる場合があります。

保全処分を申し立てるための要件と注意点

審判前の保全処分は、相手の権利を一時的に制限する強力な措置であるため、認められるためには厳格なハードルを越える必要があります。

保全の必要性を示す必要がある

単に「話し合いが進まなくて不安だから」という理由だけでは、保全処分は認められません。「今すぐこの処分を行わなければ、遺産の分割に重大な支障が生じる」という具体的な危険(保全の必要性)を客観的な証拠とともに示す必要があります。

例えば、相手が実際に不動産業者と売買契約を進めているような資料や、預金口座から不審な引き出しが行われている通帳のコピーなどが重要な証拠となります。

本案の申し立てが前提となる

審判前の保全処分は、あくまで「遺産分割調停や審判」という本案の手続きが係属している(または同時に申し立てる)ことが前提となります。保全処分単独で申し立てることはできない点に注意してください。

近年の法改正と不動産管理の重要性

近年の法改正により、相続に関するルールは大きく変化しています。2024年4月からは相続登記が義務化され、放置された不動産に対するペナルティが厳格化されました。また、2026年4月からは住所変更登記の義務化も控え、不動産の権利関係をクリアにしておくことの重要性はますます高まっています。

不動産が勝手に売却されてしまったり、複雑な共有状態にされたりすると、その後の登記手続きや遺産分割協議は極めて困難になります。「このままでは財産が処分されてしまうかもしれない」という兆候を感じたら、一刻も早く専門家に対応を相談することが賢明です。

まとめ:トラブルを防ぐために弁護士にご相談ください

審判前の保全処分は、相手による遺産の持ち逃げや勝手な処分を防ぐための非常に有効な法的手段です。しかし、裁判所を納得させるだけの理由や証拠を短期間で揃える必要があり、法的な専門知識が不可欠となります。

「他の相続人が勝手に動きそうで不安だ」「預金の引き出しや不動産の売却を止めたい」とお悩みの方は、泣き寝入りしてしまう前に、相続問題に強い弁護士へご相談ください。状況に応じた最適な保全処分の申し立てをサポートいたします。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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