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婚姻期間20年以上の夫婦における「居住用不動産の贈与・遺贈の持ち戻し免除」

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、遺産分割・遺留分侵害額請求・相続放棄・不動産登記義務化等の相続実務経験に基づき、最新の民法および裁判所実務に沿ってわかりやすく解説しています。

婚姻期間が20年以上の夫婦間で、自宅などの居住用不動産を生前贈与または遺贈した際、遺産分割の計算においてその不動産を持ち戻さなくてもよいとされる制度があります。これは、長年連れ添った配偶者の生活基盤を安定させるために設けられた民法の特例です。

本記事では、この「持戻し免除の推定規定」について、仕組みやメリット、注意点を分かりやすく解説します。

婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の持戻し免除とは

Q 婚姻期間20年以上の夫婦間で行う居住用不動産の持戻し免除とはどのような制度ですか?
A 【制度の要点】婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産を生前贈与または遺贈した場合、遺産分割の計算(特別受益の持戻し)においてその不動産の価額を相続財産に含めなくてもよいと推定する民法の特例です。これにより、長年連れ添った配偶者の生活基盤を安定させ、具体的な取り分を増やすことができます。
【注意点と対策】対象となるのは法律上の婚姻関係にある夫婦のみであり、内縁関係は対象外となります。また、他の相続人との間で遺産分割のトラブルに発展するケースもあるため、生前贈与や遺言書作成の際は、相続問題に精通した弁護士などの専門家に相談し、法的に正確な手続きを進めることを強くおすすめします。

相続が発生した際、特定の相続人が被相続人から生前贈与を受けていた場合、公平な遺産分割を行うためにその贈与財産を相続財産に足し戻して計算するルールを「特別受益の持戻し」と呼びます。

しかし、長年連れ添った配偶者に自宅を遺したいという場合、この持戻し計算が行われると、配偶者の最終的な取り分が減ってしまうおそれがあります。そこで民法が改正され、一定の条件を満たす夫婦間では、持戻しが行われたものとみなさない「持戻し免除の推定規定」が適用されるようになりました。

対象となる要件

この優遇措置を受けるためには、いくつかの厳格な要件を満たす必要があります。主な要件は以下の通りです。

  • 法律上の婚姻関係であること(内縁関係は対象外です)
  • 婚姻期間が20年(20年以上)に達した後に贈与または遺贈が行われたこと
  • 対象財産が「居住用不動産」またはその敷金・購入資金であること

婚姻期間の起算点は、婚姻届を提出した日から贈与時までとなります。また、対象となる不動産は日本国内のものに限らず、夫婦が実際に居住している、または居住するために利用する建物およびその敷地が該当します。

この制度を活用する3つのメリット

持戻し免除の推定規定を利用することには、配偶者の生活を守る上で大きなメリットがあります。具体的な効果を確認していきましょう。

1. 配偶者の生活基盤を確実に守ることができる

配偶者が自宅を生前贈与された場合でも、この規定によって他の相続人から「特別受益として持ち戻してほしい」と主張された際、被相続人が明示的な免除の意思表示をしていない限り、通常は持戻しの対象となってしまいます。

しかし、婚姻期間20年以上の夫婦間であれば、法律上「持戻しを免除する意思があった」と推定されるため、他の相続人の反対を抑えて自宅をそのまま配偶者の取り分として確保しやすくなります。

2. 遺産分割協議のトラブルを防止できる

相続人間で「生前にもらった自宅の価値も遺産に含めるべきか」という点は、深刻な争いに発展しやすいポイントです。法律で持戻しが免除される推定が働くため、遺産分割協議において無用な争いや感情的対立を防ぐ効果が期待できます。

3. 配偶者居住権との相乗効果

近年の法改正で導入された「配偶者居住権」とあわせて検討することで、残された配偶者は住み慣れた自宅で安心して老後を過ごすことができます。生前贈与による所有権の移転と、本規定による持戻しの回避は、配偶者の生活権を多角的に保護します。

注意すべきポイントと実務上のリスク

持戻し免除の推定規定は非常に強力ですが、あくまで「推定」である点や、他の相続人とのバランスなど、実務上注意すべきポイントがあります。

「推定」であるため覆される可能性がある

本制度はあくまで「持戻しをしなくてもよいという推定」にすぎません。そのため、他の共同相続人が「被相続人には持戻しを免除する意思はなかった」という明確な反対意思の証拠を証明できた場合、推定が覆されて持戻しの対象になってしまうリスクがあります。

より確実に持戻しを防ぐためには、口頭だけでなく、遺言書や贈与契約書において「持戻しを免除する」という意思を明確に記載しておくことが重要です。

遺留分に関する注意点

持戻し免除の規定によって遺産分割の計算から自宅が外れ、配偶者の取得分が増えたとしても、他の相続人の「遺留分(法律で定められた最低限の取り分)」を侵害している場合、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

特に、遺産の大部分が自宅不動産のみというケースでは、他の相続人から金銭での清算を求められるトラブルが起きやすいため、全体の資産バランスを考慮した生前対策が欠かせません。

不動産取得後の各種手続き(義務化への対応)

贈与や遺贈によって居住用不動産を取得した後は、速やかに名義変更の手続きを行う必要があります。

  • 相続登記の義務化:相続や遺贈によって不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を行うことが法律で義務付けられています。
  • 住所変更登記の義務化:2026年4月からは、住所変更があった際にも登記の申請が義務化されるため、最新の法令に則った速やかな手続きが求められます。

放置すると過料が科されるリスクもあるため、専門家のサポートを受けながら確実に対応を進めましょう。

まとめ

婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与・遺贈の持戻し免除は、長年连れ添った配偶者の生活を守るための心強い制度です。しかし、法律上の要件の確認や、遺留分への配慮、その後の登記手続きなど、法的な判断が伴う場面が多くあります。

制度を正しく活用し、円満な相続を実現するためにも、不安な点がある場合は早めに相続に強い専門家へ相談することをおすすめします。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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